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ホテルは小説より奇なり

「ニューヨーカーたち」 by ケニー・奥谷
「ニューヨーカーたち」Vol. 0103 12/15/2019 ____________________ 3.ホテルは小説より奇なり 盗難 現金とパソコンが盗まれた オフィスに着くと、電話の赤いランプが点滅していた。 今日こそは、平和な時間を与えてくれ。そう言いながら、二郎は受話器を持ち上げて、パスワードを入れた。 「伝言が1軒、残されています」 二郎は、またパスワードを押す。 「1670 室の山田と申します。部屋からお金とパソコンが盗まれました。至急、ご連絡をお願いたします」 二郎は目を閉じて項垂れた。やめてくれ。平和じゃなくてもいい。盗難だけは勘弁してくれ。 フウ。ため息をつきながら、二郎はメッセージを残したゲスト、山田篤の部屋に電話をした。 プルプルプル・・・ でない・・・ トントン、二郎のオフィスの窓を受け付け係のサリーが叩いた。 二郎は受話器をおいて、立ち上がった。 「どうしたの?」 「日本人男性がきているわよ」 「え?」 二郎は速歩きで受付に向かった。受け付け脇の席に男性が座っていた。二郎を見るなり、彼は立ち上がった。 「竹内です」 「山田と申します。昨晩、メッセージを残しました。盗難にあったものです」 「今、お部屋にお電話したところでした」 「とっても大切なものなんです。なんとか見つけてください」 「全力を尽くします」 「お金は諦められるとしても、パソコンには大切な仕事の資料が入っています。なくなりますと、途方にくれます」 「よくわかります。私も同じですから」 「どのような経緯だったのか、お話をお伺いできますか?」 山田はうなづく。 「朝からの行動をご説明いただけますか?」 「7時頃にレストランに朝食を食べにいきました。それから部屋に8時頃に戻り、9時頃に外出しました。夜の10時頃に戻ってきたら、鍵があかなかったんです。それで、セキュリテイーに来てもらい、あけてもらったら、部屋が荒らされていて、パソコンと封筒に入った2千ドルがなくなっていました」 「封筒はどこにおいてあったのですか?」 「鞄の中です。その鞄は椅子の上においていきました」 貴重品はセーフティボックスの中に入れなければならないくらいのことは常識だろう。だが、そんなことを言ったら、ガスボンベに火をつけるようなことになりかねない。まいったな。 「あの、こんなことを言ったら、失礼かもしれませんが・・・」山田が弱い声で言った。 「どのようなことでしょう?」 「ハウスキーパーが盗んだのではないでしょうか?」 「部屋が荒らされていたんですよね?ハウスキーパーならば、そんなことはしないですから、それはないと思います」 山田の表情が固まった。

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  • 「ニューヨーカーたち」 by ケニー・奥谷
  • オフィスに戻ると、同僚が泣きじゃくっていた。「どうした?」「今朝レイオフになったわ。今日の5時で皆とお別れよ」私がプラザホテルに赴任した1994年から最初の2年間はレイオフの嵐が吹き荒れた時代。プラザホテルを溺愛したオーナー、ドナルド・トランプ氏も破産の危機に直面。最良のオーナーを失いかけた世界最高峰のホテルは競売へと傾いていく。恐怖に怯える私にできることは、ニューヨーカーたちの働きぶりを一心にまねることだけだった。ここに私が学んだニューヨーカーたちの生き方、考え方、そして人生観について述べてみたい。
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