今週のざっくばらん
デジタル・トランスフォーメーションとイノベーションのジレンマ
最近、私は「DX(デジタル・トランスフォーメーション:最新のデジタル技術を活用したビジネスの効率化やユーザー体験の改良)は、業界内部では起こりにくく、新しくその業界に参入する企業が起こすケースが多い」という話を色々なところで書いたり話したりしています。
最も分かりやすい例が、書籍販売のDXです。インターネットが誕生した時に、いち早く「書籍をオンラインで販売すること」の価値に気が付いたのが Jeff Bezos で、その結果、誕生したのが Amazon でした(厳密には、Jeff Bezos は「最もオンライン販売に適した物品」として最初に書籍を選んだだけですが、ここは書籍に絞って話します)。
Amazon がやったことは、単にオンラインで書籍を注文出来るようにしただけで、ウェブサイトは陳腐なものだったし、その後ろの配送業務も、ほとんど手作業で行なっていました。
この時点で、既存の大手の書店チェーンがオンライン販売に乗り出していたら、Amazon はあっと言う間に倒産していたと思いますが、そうはなりませんでした。彼らは、「オンラインで書籍を買う人はごく一部だ。書籍は自分の手で持ってこそ購入するものだ」と言う考えに囚われていたのだと思います。
その後、Amazon の売り上げが伸び始めて、ようやく彼らもオンライン販売の価値を見出すようになりましたが、そこからの動きはとても遅いものでした。そもそも彼らはデジタル技術が得意ではなかったので、オンラインストアの開発は外の開発会社に委託して作ってもらわなければなりませんでした。「人々はなぜ、オンラインで本を購入するのか」という本質的な部分も分かっていなかったため、ウェブサイトのユーザー体験も、単にAmazonを表面的に真似しただけのものでした。
ようやく彼らがオンラインストアをリリースした時には、Amazon 側はそれまでの知見を生かして、はるか先を走っていました。過去に購入した書籍や、同じような書籍を買った人のデータを活用して、オススメの書籍を並べる手法、配送プロセスの自動化、問題が起こった時のカスタマー・サービスの体制など、表からは見えにくい部分で、大きな進化を遂げていたのです。
私は、この頃に、一度だけ Amazon 以外のウェブサイトから書籍を購入したことがありましたが、惨憺たるものでした。書籍がいつまでも届かないので、電話をかけると、やたらと時間がかかるのです。Amazon と違って、配送が完了したのかどうかを追跡するシステムすら持っていないことは明らかでした。
その後、さらに Amazon は進化を続け、今や世界をまたにかけた流通ネットワークを持っているし、品揃え、値段、配送スピード、配送コスト、顧客サービスなどのあらゆる面で、誰も手が届かないところまで達してしまいました。
つまり既存の書店は、当初は、従来通りのやり方で十分だと思ってしまったため、出遅れた途中でDXが必要なことに気が付いたものの、それは表面的でしかなく、「なぜ」という本質の部分はなかなか理解できなかった得意でない領域での戦いを強いられることになった社内にエキスパートを持つことが出来ず、外注に頼らざるを得なかった進化のスピードでも負けていたため、差が開く一方だった
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