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第572回 なぜアメリカはイランを叩くのか?報道されない事実、クレイグ・ハミルトン・パーカーが発見したトランプの「アガスティアの葉」
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▼まったく去ってはいない危機
1月9日の米トランプ大統領によるイランのミサイル攻撃に対する報復を自制するとの発表によって、イランとアメリカが報復合戦になる最悪の危機は当面は回避された。だが、イランを巡る危機そのものが去ったわけではない。なにが起こってもおかしくない状況が続いている。
「コッズ軍」のソレイマニ司令官と「イラク人民動員部隊」のムハンディス司令官の殺害に激怒している親イランのシーア派系武装民兵組織は、いつ大規模な報復攻撃を行うか分からない。こうした武装勢力は、イラク、シリア、レバノン、イエメン、パレスチナで活動しており、中東全域の米軍関連施設が標的になる恐れも十分にある。
また、1月9日にはテヘラン発キエフ行きの民間航空機は撃墜され、180名近くが死亡した。その多くはイラン系の乗客であった。イラン政府はこれを、「イラン革命防衛隊」の誤射であることを認めたものの、当初はそれを認めなかった政府の態度にイラン国民は怒り、指導部の辞任を求める抗議運動がテヘランで始まった。この運動が拡大すると、イラン政府指導部は国民の怒りを外部にそらすために、新たな報復攻撃を実施するかもしれない。
さらにイランは、かろうじて維持されていた「核合意」の規定を破り、制限のない核燃料の濃縮を行うと表明した。これに対し、ドイツ、フランス、イギリスはイランがこれを続ける場合、新たな制裁の発動を容認する方向に動き始めた。イランと欧米との緊張が改めて高まっている。
●やはりイスラエルが関与していた
いまこうした緊張した状態だが、ことの発端となったソレイマニ司令官の殺害は、日本の主要メディアで報じられているような、状況をよく理解していないトランプによる独断ではないことが明らかになっている。前回の記事に書いたように、今回の殺害は長い間計画されていたものであり、そこにはイスラエルの具体的な関与があった。
米大手紙の「ニューヨーク・タイムス」、イスラエルの主要紙、「エルサレム・ポスト」、「ハーレツ」、イランの主要テレビ、「プレスTV」やイランの情報誌、「FARS」などの記事によると、ソレイマニ司令官一行はシリアのダマスカスからイラクのバクダッドに入ったが、彼らが搭乗した飛行機を特定し、それをイスラエルの情報機関に教えたのは、シリアにおけるイスラエルがのスパイだったという。
この情報はすぐさまアメリカに伝えられ、攻撃が実行された。またネタニヤフ首相だが、事前にこの計画を知らされていたという。
そしてこの暗殺計画は、約2年の検討と計画を経て実行された。ソレイマニ司令官の殺害の検討が始まったのは2018年7月からである。イラン国内の殺害は困難だとして、イラクやシリアなどの近隣諸国での殺害が検討された。その後、2019年5月には当時のボルトン安全保障担当補佐官が殺害計画の実行をトランプ大統領に進言した。
さらに2019年9月、ポンペオ国務長官は「FOXニュース」とのインタビューで、ソレイマニ司令官を「IS」の指導者、バグダディー容疑者と同じ水準のテロリストに指定する意向であることを表明した。そして、殺害計画があるのかとの記者の問いには、「アメリカ人がソレイマニによって殺害されることがないようにする義務が大統領にはある」とし、明言はしなかったものの殺害も視野に入っていることを匂わせた。
こうした経緯を見ると、すでに昨年の9月には具体的な殺害計画が存在していた可能性が高い。そして、イスラエルの情報機関との緊密な連携のもと、作戦は実行され、ソレイマニ司令官は殺害された。
●なぜアメリカはソレイマニ司令官を敵視するのか?
このようにソレイマニ司令官の殺害は、状況を知らないトランプの国防総省の意向を無視した独断んどではなく、少なくとも2018年7月から周到に準備された計画であった。おそらく計画立案の当初からイスラエルは関与していたであろう。ということでは、ソレイマニ司令官が米軍基地を攻撃する大規模な計画があったので殺害に踏み切ったとするトランプ政権の説明には、明確な証拠がない。むしろ、米軍への攻撃があってもなくても、ソレイマニ司令官の殺害は、はるか以前に計画がされていたのである。
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