「先輩、もしも自分が作品を書いて、それに対してつけるなら、どんなのをつけますか?」
私が聞いてみると、先輩はふむと考え込んだ。私は文学部の活動記録を取り出した。
そこには、先輩が文学部の所属として執筆した作品がいくつかある。
「おい、人の過去の作品をあまり引っ張り出すな」
「『桜』。先輩が部に所属して初めて書いたのがこの作品でしたっけ」
私が先輩の言葉なんて無視して部誌をめくっていると、先輩は額に手を当ててため息を吐きながら、ああそうだと頷く。
その頬がわずかに赤く染まっているのは、過去の作品を見られたことによる羞恥だろうか。
「この作品はどうして『桜』なんてタイトルにしたんですか? 『桜』が重要な位置を占める作品だったとか」
「ああ、そうだな。桜の美しさをテーマにした作品だったから、タイトルもそのまま『桜』にした」
安直ですねえ。思わずそう言うと、先輩は安直で何が悪い、と返した。
「作品に登場する重要な小道具をタイトルにするのは、作品の内容と結び付けるのには最適解だぞ。
頭を悩ます必要もないし、何より無難だ。無難ということはつまり、誰からも受け入れられるということだな」
「でも、正直なところ、同じようなタイトルがいくつも並ぶと、印象には残りそうにないですよね。
歌の話になりますけれど、たとえば『花』とか、いくつもありますし。誰の『花』なんだよって」
私が言うと、先輩は頷いた。
「そうだな。それがこういったタイトルの不利な点だろう。
似たようなタイトルが量産されることになり、よほど内容が印象的なものでない限り、読者の記憶に残すのは難しい」
簡単で敷居が低い分、当然、そういったタイトルは多くなる、というわけだ。
タイトルから本の特定がしにくいというのは、図書館や投稿サイトで探すときの手間から考えても、わかる話だろう。
先輩の言葉に私は頷く。たしかに。そうした本は作者名でしか見つけられない。
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