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【Vol.321】冷泉彰彦のプリンストン通信

冷泉彰彦のプリンストン通信
▼「本日の論点(1)コロナ死亡数の誤差」  NYでは、コロナ死者の「カウント漏れ」が指摘されています。というの は、市町村から上がって州がまとめる毎日の感染者、死亡者情報とは別に、 「在宅死」が異常値になっており、どうやら毎日200名ぐらいが「通常の 年より多く」なっているのだそうです。  恐らくこの数字はコロナ患者の肺炎死亡だということで、現在、特にNY 市警などが調査中です。まだ憶測の域を出ませんが、発生がブルックリン区、 クイーンズ区に集中していることから、コロナ診療が無料化されていること を知らず「無保険なので医者に行かない」とか、NYでは危機に際して移民 摘発活動を強く規制していることを知らずに「不法移民なので病院に行った ら危険」と思い込み、アッと言う間に容態が悪化して亡くなるというケース であるという可能性も指摘されています。  とにかく、毎日200名というのは猛烈な数であり、そうなるとトータル で3千とかそれ以上はあるかもしれません。この問題は、カウント漏れにと どまりません。在宅での「新型コロナ肺炎死」であれば、救急隊や警察など 対応にあたった職員も、防疫体制を整えて対処すべきですが、仮に「そうで はない」という対応を取っているのであれば、感染拡大が心配です。NY市 警、消防、救急に多くの感染者そして死者が出ているのが問題になっていま すが、このような実態が一因としてあるのであれば、これも大きな問題だと 思います。  一方で、イタリアの場合は、高齢者を中心として「末期がん」「心疾患」 などの死亡者がコロナ肺炎死にカウントされている、つまり「死亡数の水増 し」がされているという説があります。同様の説は英国でも言われているよ うです。  そんな中で、読者の方からご指摘をいただく中で、先週のQ&Aでも少し 取り上げたのですが、日本の場合は、コロナ肺炎死亡の数が「少なすぎる」 という議論があります。例えば、本稿の時点でジョンズ・ホプキンスのコロ ナ・ポータルで見てみますと、 https://coronavirus.jhu.edu/data/mortality 日本の死者は102名に過ぎず、人口10万人あたりの死亡数は0.09に 過ぎません。この0.09というのは、アメリカの6.73、イタリアの3 2.93、スペインの36.83などと比較すると猛烈に低い数字です。欧 州の中では立派だと言われているドイツにしても、3.64です。  この102という数字は、確かにいくらなんでも少なすぎるのは確かです。 通常の高齢者による「肺炎死」に「紛れ込ませている」というのは、実例と してあるようです。ただ、実は1桁違って1000人単位でいるのかという と、それはちょっと違うと思います。  具体的には「コロナを疑ったが、病院が風評被害を受けないように、ある いは患者と家族の「お別れ」を可能にするために、コッソリ普通の肺炎とし て処理した」とか、「保健所にPCRを依頼したが、実施前に患者が死亡し た」というケースは多少はあるでしょう。  ですが、前者の場合は「社会的にバレないようにしながら、しっかり感染 対策はして、遺体の扱いもキチンとする」とか、「家族に対して死亡時の立 ち会い等を許しつつ、感染対策はスマートにしっかりやる」などという高等 な技術を駆使できる医師や看護師というのは限られると思います。  では、コロナを疑ったが、バレないように処理し、そのために感染防止対 策もあまりしなかったというケースがゴロゴロあるのかというと、日本の医 療現場はそこまで無謀ではないと思います。院内感染というのはここへ来て 大きな問題になっていますが、「通常の肺炎」という死亡診断をムリにやる ことで、院内感染が起きればそれこそ大変なので、数的には相当に限られる のではないでしょうか?  後者の方はどうやら相当にあると思われます。ですが、これも感染対策を 考えると「PCRを待てずに亡くなった」場合は、PCRをやって数字にす るというのが基本的なガイドラインのはずで、そこからも漏れてしまう数字 というのは、それほど多くはないと思います。  ということは、日本の死亡数は102(クルーズ船除く)というのは少な すぎるとしても、200から300程度。従って、現時点では先進国中では 著しく低い水準だということは言っていいと思います。  問題は、日本の医療体制です。ICUのベッド数、人工呼吸器の数、人工 呼吸機や人工肺を運用できる医師、看護師の要員数といった「数」の問題で、 相当に限界が低いこと、そして限界を超えてしまって「例外対応」が必要に なった際に、柔軟に最善手を判断する訓練がされていないことなどには、懸 念を感じます。  こちらは、感染症や数理の専門家ではどうしようもない問題で、医療行政 や、医師団体として一刻を争う問題であると思います。厚労相をはじめ、こ の間、世論とのコミュニケーションをクラスター対策班に投げっぱなしであ った、本来の指揮系統がしっかりこの問題に対処しないとダメだと思います。

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  • 冷泉彰彦のプリンストン通信
  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
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