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【Vol.323】冷泉彰彦のプリンストン通信

冷泉彰彦のプリンストン通信
▼「専門家任せのリスコミをめぐって」  以前にもこの欄でお話をしたように、リスコミ(リスク・コミュニケーシ ョン)においては、立場が透けて見えてしまう政治家や、組織防衛の匂いの する官僚の言葉は伝わって行きません。生命の安全ということに危機感を持 った世論は、どうして嗅覚が鋭くなってしまい、リスクとの対決に集中でき ずに、利害を計算してしまう人の言葉は受け付けないからです。  そこで、トランプ政権も安倍政権も「大事なことは専門家に語らせる」と いう手法に逃げているわけです。そんな中で、以前から指摘しているように、 厚生労働省のクラスター対策班で活動している北海道大学の西浦教授が、リ スコミの前線に立たされてしまっています。  その西浦教授については、例えば左派は「安倍政権が8割削減という根拠 なき強制を行っているので怪しい」という立場ですし、一方で右派(アゴラ 陣営など)からは「不要な対策、そもそも数学的根拠が隠されていて怪し い」などと批判を受けているわけです。また、専門的な立場としては、横浜 市大の佐藤彰洋教授の批判などもあります。  佐藤教授は「遅れという概念」、つまり感染拡大の数理計算において、潜 伏期間などのパラメータに「もっと長い期間もありうる」とすると隠された 感染がもっと拡大している可能性があるということ、それと「地域特性」、 つまり東京のカーブと、もっと人口密度の低い地方のカーブは全く異なると いうこと、この2つを主たる根拠として西浦計算を「甘い」と批判していま した。  但し、その後、ツイッターの世界で、西浦教授から佐藤教授には「対策班 に来ませんか?」という勧誘がされていたようですので、お二人は気持ち的 にも数理計算の理論の上でも通じているのかもしれません。  それはともかく、西浦教授は自称(?)「8割おじさん」としてすっかり 有名になっており、ネットの世界では称賛もあれば、炎上気味でもありとい う状況になっています。  こうした様子を見て、神戸大学の中澤港教授(公衆衛生学・国際保健学) が次のようなコメントを出しておられました。切実な文章なのであえて引用 させていただきます。 「西浦さんがリスコミや広報的な仕事に力を入れれば入れるほど,手続き的 説明の厳密さを大事に思っている人たちというか,細かい突っ込みをしたい 人たちが敵に回り,理論疫学自体や西浦さん自身を攻撃し始める(学問自体 は論文でしか評価されないから,広報で出したものを批判されても,学問的 には痛くも痒くもないが)。ああいう仕事は尾身先生と押谷先生がした方が 良い。仮に,批判者が求めている,本当に使っているモデルの詳細な説明を したとしても,ある程度数学の素養が無いとわからない話なので,広報とし てはあまり意味が無い。むしろ,尾身先生や押谷先生が,本当はもっと細か く丁寧な分析をしているのだけれども,プロでないと理解できない話だから, 本質を失わない範囲で物凄く簡略化して説明します,と前置きして説明すれ ば,「論文は難しくてわからないけれども論理性に欠ける」とか「いい加減 な人だ」とかいう,明後日の方向からの攻撃(そういうtweetがあった)を 避けられるのではないか。リスコミ班の方々,西浦さんに頼りすぎ。出てこ いと言われても計算しているから暇が無いで良いと思う。とはいえ,他の誰 が言うよりも西浦さんの声の方が多くの国民に届くという広報のプロの判断 は,たぶん正しいのかもしれず,それで行動変容が拡がるなら,自分は泥を 被っても良い,と西浦さんは思っているのだろう。泣けてくる。」  多分そうなんだと思います。例えば、私のこのコラムなども、もっとキチ ンとした発信ができていれば、こうした専門家の方々の負荷を減らせるはず です。私はコロナの専門家ではありませんが、少なくともジャーナリスティ ックな発信については、経験も含めて専門家だからです。  その意味で、この中澤先生のコメントについては、100%同意というだ けでなく、とても重く感じられたのは事実です。

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  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
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