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【Vol.324】冷泉彰彦のプリンストン通信

冷泉彰彦のプリンストン通信
「PCR件数、問題は検体採取ではなく分析体制」  日本においてPCR検査の件数は思うように伸びていません。例えば4月 6日に安倍総理は、この日に行われた新型コロナ対策本部の会合で、PCR 検査の1日あたりの実施数を、当時の平均1万件から倍の2万件に増やすと 表明しました。ですが、それから約1ヶ月を経た後、国会において加藤厚労 相は、「2万件に「拡充する」が2万件「検査する」とは言っていない」と 答弁して、世論の怒りを招いています。  この加藤答弁は、安倍総理が「桜を見る会」に関して、自分の山口県事務 所が有権者に対して「募っているが募集はしていない」とした珍答弁と比較 されているようですが、勿論、深刻さということでは次元が異なります。P CR検査が受けられないことで、入院治療ができない期間に突然死する症例 も出てきている中では、正に生と死を左右する問題だからです。  加藤大臣は何を考えているのか、というと自分の所轄している厚労省の利 害を代表していると考えられます。では、PCR検査の件数を増やしてしま うと、一番負荷がかかると思われる保健所の現場を守るために、「拡充する が検査はしない」という奇怪な答弁を駆使しているのかと思うと、そうでも ないようです。  例えば、29日の参議院予算委員会では、村田蓮舫議員は、 「3月中旬から4月28日まで、路上や自宅で突然死し、検視して(コロナウ イルス感染)陽性だった人の人数は何人ですか? 18人です。うち11人が 東京です。検査結果は亡くなった後だったという報道がある。今の検査体制 だと救えない命があるのではないですか?」  などと例によって威勢よく質問をしたのですが、これに対して加藤厚労相 の答弁は、は以下のように答弁しています。 「検査を受ける要件ではなくて、受診の診療の目安でありまして、37.5度を 4日、そこを超えるんであれば必ず受診をしていただきたいということで出 させていただきました。そして倦怠感等がある。それも4日だ。あるいは37. 5度と倦怠感と両方だと、こういう誤解もありましたから、そうではないん だ、倦怠感があれば、すぐに連絡をしていただきたいと。こういうことは、 これまで幾度も周知をさせていただいております。」  その後の部分では 「さらにそうした誤解があれば、誤解を解消するよう努力していかなければ ならない。それ以前の問題として、保健所機能がそういったところで本来の 機能を発揮できるように我々も一緒になって課題を解決していく。ボトルネ ックを解決していく。現場も努力をしながら、相当努力をしながらやってい ただいております。」  などと、まるで保健所も誤解しているので「本来の機能が発揮できていな い」と保健所まで非難しているような答弁になっていました。つまり、現場 の最前線である保健所を守るために「PCR件数をコッソリ裏で抑制」とい うことでもないようです。  ちなみに、これは加藤大臣だけでなく安倍総理もそうですが、PCR検査 が足りないという批判に対しては、「検査を増やす努力」をしているという 答弁もあるわけですが、例えば、同じ4月29日の村田議員への答弁で加藤 大臣は、 「PCR検査の人手という問題もありますので、歯科医師の方にも協力をお 願いしました。国民の皆さんが安心して頂ける状況を一日も早くつくるべく 努力をしたい」  などと答えていました。こう言われると、何となく「規制緩和には慎重な 厚労省にしてはフレキシブルにヤル気だな」という印象を持ってしまいます が、これも要注意です。  この「歯科医でも可能」とか「ドライブスルー検査も」などというのは、 全て、検査の前半部分、つまり対象者の鼻の奥から綿棒を使って「検体を採 取」する部分の話です。問題は、そこが足りないだけではありません。集め た検体を、試薬と機器を使いながら技師が「検査する」という後半部分、つ まり「分析」の部分のキャパが足りていないのです。そこを改善するという 話は、全く聞こえてきていません。ということは、厚労省としては「改善す る気がない」と考える事ができます。

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  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
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