■「感情労働」のあり方を見直そう
日本で働いている人なら、仕事中に作り笑いをした経験があるはず
だ。接客業などなら、毎日作り笑いばかりしているという人もいる
かもしれない。だが、感情を装うには多大なエネルギーを要する。
最近、日本で「感情労働」という言葉を耳にする。一般に、労働の
分類には「肉体労働」と「頭脳労働」という分け方が昔からある。
だが「感情労働」はそれに続く第3の労働形態だ。
肉体労働は「肉体」を、頭脳労働は「頭脳」を使ってする労働だ。
これに対し、感情労働は、人間の「感情」を使ってする労働のこと
を指す。
★
「感情労働」では相手を特定の感情に誘導するために、自分自身の
感情を制御することが求められる。接客業の店員が、客の印象を良
くするためにする作り笑いはその典型的なパターンだ。
サービス経済化が進展することで、これが必要とされる業種で働く
人の数は年々増えている。「おもてなし」という言葉で象徴される
ように、サービスの水準が高いのが日本だ。
裏を返せば、店員はそれだけ過酷な「感情労働」を強いられている
のだ。実際、過剰なサービスを「あたりまえ」のものとして提供し
てきたことによる綻びが各所で生じ始めている。
飲食店や小売店の現場では、過剰サービスに慣れきった客がちょっ
としたことで店員を罵倒したり、土下座を要求したりする「カスタ
マーハラスメント」と呼ばれる事件が相次いで起こっている。
中には、そのせいで心身を壊し長期間離職を余儀なくされる人もい
る。直接ハラスメントにあわなくても、日々の「感情労働」に疲れ
て燃え尽き症候群に陥いる人も多い。
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感情労働による苦しみは、次から次へと連鎖していく性質持つ。た
とえば、感情労働で心をすり減らしたAさんが、客の立場になると、
店員のBさんにつらく当たる。
Bさんはストレスを溜め、そのせいでまた新たに誰かを攻撃する。
もちろん、中には自分が接客の仕事で大変な思いをしているから、
他の店では店員に優しく接しようと考えている人もいる。
これは自分のところで負の連鎖を断ち切っているという点で非常に
すばらしい考え方だ。しかし、すべての人がそのようにすばらしく
振る舞えるわけではない。
飲食店などで店員を執拗に攻撃している人も、もしかしたら仕事の
場では、同じように他人から理不尽な攻撃を受けているのかもしれ
ない。そう考えると、悲しさが何倍にも増していく。
★
他人を攻撃するところまでは行かなくても、感情労働をしているせ
いで、プライベートでうまく感情を表現できなくなることはよく起
きている。
作り笑いばかりしている人は、その反動で仕事以外の場面ではうま
く笑えなくなる。自然に笑顔を作ろうとしても、どこかぎこちない
ものになってしまう。
また、仕事で長時間にわたって感情を抑制したせいで、プライベー
トの場では、逆に感情の抑制ができなくなってしまうという場合も
ある。
些細なことですぐに怒ってしまったり、涙が止まらなくなったりす
ることがあるとしたら、それは長時間の感情労働が原因かもしれな
い。人間は、社会生活を送るなら、誰もでも感情の抑制が必要だ。
友達や家族との会話でも同じだ。人は、感情の抑制と加工を通じて
関係を円滑にし、平穏な社会生活を送っている。仕事で感情抑制ば
かりしていると、そのエネルギーを使い果たしてしまう恐れがある。
見ず知らずのモンスター消費者のせいで、家族や恋人につらくあた
るとしたら本末転倒だ。身近にいる大切な人を守るという意味でも、
そろそろ感情労働のあり方を見直さなければならない。
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