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【Vol.328】冷泉彰彦のプリンストン通信

冷泉彰彦のプリンストン通信
「リアリティー・ショー破綻、その構造とは?」  リアリティーショーというジャンルのTV番組があります。勿論、リアル でも何でもなくてコンセプトが最初に設計され、ラフなストーリーも設定さ れる場合がほとんどです。目的は、フィクションとしての仕上がりではなく、 限りなくリアルと見間違うような演出効果ですが、そのために演技者には無 名の人材が起用されたり、自発的なアドリブで演じられるように誘導するな どの演出がされます。  ただ、多くの場合は放送作家が収録に同行して、要所要所では適切なセリ フを投げ入れますし、演出家の介入もしっかり行われます。反対にそうした 作為がなければ、番組としてスムーズに視聴できるような仕上がりは難しい ことになります。  但し、こうしたリアリティ・ショーには大きな弊害があります。まず視聴 者に対しては、とにかく現実と虚構を混同するように誘導する、これが番組 制作の最大の目的になっています。現実と虚構の「せめぎ合い」に面白さが あるというのは、一部の「ひねくれた通」の見方であって、コアの視聴者層 に対してはほぼ100%がリアルだという錯覚を生じさせる、それがCM販 売の場合は広告主の、有料視聴の場合は配信サイドの目的になります。  一方で、出演者の側ですが、訓練されたプロの俳優が完成された台本で虚 構を演じる場合とは、全く異なります。表面的には、ラフなストーリーを与 えられ、断片的な演出を施されるだけで、セリフや演技指導のない部分は、 自発的な演技で補っているわけです。ですが、その自発的な演技の部分につ いては、「素の自分」でやっているような錯覚があり、その錯覚を持たされ たまま収録に参加するわけです。  何が問題かというと、まず出演者の側については、自分の演技技術でパフ ォーマンスを行い、その対価としての報酬を得るというスキームにはなって いません。素の自分で対応できる部分があることと、自身が無名で演技者と して訓練を受けていないということから、極端に低額な報酬に甘んじさせら れるということが1つあります。  もう1つは、仮想の空間で演技をしているうちに「素の自分を出してい る」という錯覚に陥るということです。視聴者の方が虚構と現実を混同させ られている一方で、演技者の方も100%虚構であるにも関わらず、どこか 「中の人」が「にじみ出ている」感じになってしまうのです。  この構造がある中で、例えばヒール役の人の悪態の演技が「大成功」とな って、広告主や配信元の思惑通り、視聴者が「演技なのに悪態を現実と思っ て憎悪感情を増幅させる」ことになると、それを「役柄=中の人」と間違え て攻撃してくるということになります。SNS時代の現在であれば、それは そうなるでしょう。  これが完全なフィクションとプロの役者なら、中の人も含めて大成功と喜 ぶところですが、リアリティーショーの場合はそうはなりません。  先ほどお話ししたように、中の人も「半分は素の自分かも」と思い込まさ れて演技をしているわけで、そこへ暴力的な批判が殺到すると、そのままで は受け止めきれないということになります・・・

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  • 冷泉彰彦のプリンストン通信
  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
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