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【死んでも書きたい話】 脱走の最後のチャンスを逃す

安田純平の死んでも書きたい話
今回は日記の2015年11月28日から同12月5日までです。 よろしくお願いいたします。 【2015年11月28日(土曜日)】=拘束154日目 昨夜は後悔を通り越して、アハラル・シャムに引き取られて取材して帰れれば、イスラム法廷なとガッツリ取材して帰って本分の部分で取り返してやる、とか思ったが、朝起きるとまた後悔。 奴らはどうも玄関前に見張りおいたっぽい。台所から出て外で話す声がした気がする。前は多分いなかったと思う。オレが自分でリスクを負えれば、1人殴るだけで逃げられた可能性高い。今となっては隣の家が頼りだったのが分かる。他人にリスクを負わせてオレは最低だ。せめて救出に来た彼だけでも守らないといけないのに、マシンガントークされて止められなかった。 オレは人がやっているのを見に来るだけで、自分1人でリスクを負うプレイヤーには絶対なれないのだ。1人になってはいけないし仲間と詳細に打ち合わせしておかないと駄目なのだ。それで帰りはガッツリ取材できればオチはつくのだが、単にこいつらにトルコに放り出されて終わりでは話にならない。アハラルが受け入れてくれるなら入り直すしかない。取材できるなら時間かかってもしっかり取材したい。 だから、年末年始ならガイドのムーサも来れるかもだし、年内にはアハラルに引き渡してほしい。「助けを頼んでいない」ということでアハラルに引き渡してくれないかも。頼んだに決まっている、と奴らの上は思っているはずだが。こいつらもオレ警戒しているわけだし。 今は何を取材するかだけ考えよう。希望を持たないと死んでしまう。アハラルが怒ってなければ受け入れてくれる確率高いし最高の環境かも。彼が変な扱いされていないことを祈るしかない。オレを帰すくらいなら彼も帰すのでは。このノートが終わるまでに帰してほしい。相当節約せねば。 昼ころ自称イエメン人のアブドゥルが「ザータル(スパイス粉のミックス)あるか?オリーブ油は?オリーブが欲しい?前のとは違うならあるけど」と、苦いスパイスのついたオリーブを持ってくる。入れ物のパックも洗ってオリーブを入れ、ザータルも追加。茶ぬるいのを2杯も。こいつだけあまり変わってない。 13:45、電気。映画「MI3」の音がでかいというのか奴らドアをガンガン。テレビの音が外に聞こえてやばいと気づいたか。外の音が聞こえないと言いたいのか。今まで色々チャンスだったのだ。 NHKを流して場所を知らせていたのにヘタを打つとは。彼だけでも逃しとけば違ったか?まだ何も分からんが。早く終わる根拠なんてない。あるとすれば場所バレだが、仲間が捕まったしアハラルも動けない恐れ。奴らがアハラルの連絡を取っているとしたら、場所を誰かに喋ったら彼を殺す、の脅しはしているはず。こういうのは書いていてもしかたない。ノート節約。しかし書かないと落ち着かない。アハラルがここからオレを見失わないと期待するしかない。いつ帰れるかを考えても無駄。 アハラルで取材することだけ考える。アハラルがダメと言うなら終わり。オレは終わり。トルコの同じ町に帰されるならそこでアハラルと合流すれば「国境でアハラルと合流」はうそじゃない。オレと同時に彼も帰されてれば、が条件か。 結局、やり直して見せる、でしか結論出せないことに。反省できず同じヘタうったのだから。自分は何者なのか、どの程度なのか思い知ったというのがある。絶対に彼ら、案内人と離れないなど、自分に必要な状態をちゃんと維持する。 映画「Pirate Radio(邦題:パイレーツ・ロック)。頭に入らなかったがちゃんと見たい。見た気がしていたが、見てないない。

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  • ジャーナリスト安田純平が現場で見たり聞いたりした話を書いていきます。まずは、シリアで人質にされていた3年4カ月間やその後のことを、獄中でしたためた日記などをもとに綴っていきます。
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