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【Vol.336】冷泉彰彦のプリンストン通信

冷泉彰彦のプリンストン通信
「パンデミック再拡大の現状〜アメリカから」 今週の時点の世相としては、次のようなことが言えると思い ます。 1)大統領の威信は意外な形で大きく下がってきました。意外というのは、 この威信低下という現象が、この人には似つかわしくない形で、静かに、そ して確実に進行しているということです。崩壊するにしても、周りを巻き込 んで大騒動の挙げ句に政権を放り出すとか、とにかく派手な崩れ方をすると 皆が思っていたわけですが、そうではなく静かな崩壊が進んでいるようです。 2)静かな崩壊ということでは、色々な指摘が出来ます。例えば「南部連邦 旗は南部の誇り」という発言が大統領から飛び出しました。それも三大ネッ トワークのインタビューの中でです。従来であれば大問題になったはずです が、今回は「なるほど彼らしい」「けれどもサプライズではない」「そして 社会として許容できないのは当然」というのが世論の受け止めです。要する にトランプとしては自滅の回路に入っているのです。共和党大会の開催断念 もそうです。政治的には大失点ですが、リカバリ策があるのでもないようで す。 3)トランプ個人の選挙運動も低調です。6月にオクラホマなどで選挙集会 を行った際には、まだ人が集っていたのですが、その後はこの種の集会はご 法度となる一方で、支持者もさすがに怖くて行けないムードです。そんな中、 選対としては大量に販売を予定していた「トランプ」ブランドの「グッズ」 が余っているようで、支持者には「抽選で無料配布」「半額セールキャンペ ーン」などを行っています。大統領選の7月としては極めて異例です。そん な中で、7月26日にはゴルフをするために移動中の大統領が、ニュージャ ージーで「例の帽子」を集まったファンに無料で配る(実際は投げていまし た)というパフォーマンスまで飛び出しました。 4)7月が終わろうとしていますが、これをもって「失業者には失業手当に プラスして毎週600ドルを給付」という大盤振る舞いが終了します。では、 8月から雇用が回復する気配があるかというと、南部、中西部を中心に絶望 的な状況が続いています。そうなればトランプとしては「600ドル給付を 継続」という主張となるはずですが、政権としては「失業していない人にも バラマキをしないと票が逃げる」という恐怖心から「源泉所得税の減税」と いう奇策を唱えています。一方で、議会共和党は給付の縮小案であり、しっ かり「カネをまく」案を主張しているのは民主党だけという状況です。 5)南部、中西部の感染拡大については、これにカリフォルニアを加えても いいと思いますが、4月のニューヨーク、ニュージャージーの感染爆発とは 少し様相が異なる感じがしています。まず、感染拡大の主体と言いますか、 悪くいえば媒介者というのが20代から30代で、クラスター発生の場所も バーなどが主のようです。NYの場合は地下鉄通勤のエッセンシャル・ワー カーなどを中心とした40代から50代が中心でしたから、その点が異なり ます。つまり重症化率がやや低くなる可能性はある一方で、運動性が激しく 大きいの拡散の度合いが大きいという面もありそうです。 6)一方で、ニューヨーク、ニュージャージーの場合は「老人ホームの患者 を一般コロナ病棟への転院を禁止」したという施策が、現在事後的に大問題 になっています。救命できる重症者のためにICUを空けておく、という一 種の露骨な「命の選別」であったわけですが、余りに批判が大きく、現在感 染爆発を起こしている南部などでは採用していません。従って「老人ホーム のクラスターによる大量死」という現象は阻止できています。ですが、反面、 ICUパンクによる医療崩壊がすぐに起きてしまうことになり、テキサス、 フロリダ、ジョージア、アリゾナの大都市圏では苦悩が始まっているのも事 実です。 7)今回の感染拡大ですが、問題の中心にあるのはCOVID19という 病気への理解不足です。感染拡大の原因となってウィルスを拡散している若 い層の多くが、「自分たちはかからない」という単純な思い込みを前提に遊 んでいるわけです。例えば大統領自身が7月19日の時点(FOXニュース のインタビュー)でも、若者は1日で治る的なことを言っている、これは問 題です。軽症者、無症者による無自覚な拡散というのが、今回のパンデミッ クの核にある問題なのですが、この点についての理解が決定的に足りません。

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  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
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