週刊 Life is Beautiful ２０２０年８月４日号

今週のざっくばらん コロナ後の世界：mmhmm（ンーン） 通常、サービスやアプリをローンチしてもなかなな注目されず、そのままで終わってしまうものが大半です。それでも我慢して、何ヶ月も何年も改良を続けて、ユーザーの信頼を勝ち取った会社だけが生き残れるのが、この業界です。今評判の、Slack や Zoom もそんな形で何年もかけて今の地位を築いたのです。 そんな中で、ローンチして１週間も経たないうちに爆発的に知名度を上げることに成功した異端児が誕生しました。mmhmm（ンーン）というアプリです。 私が最初に目にしたのは、CEO、Phil LibinによるYoutube ビデオ「mmhmm beta preview」です。 Phil Libin は、Evernoteという会社の創業者として有名ですが、２０１５年のCEOの座を退いてからは、投資家としての活動が主だったようです。 mmhmm はひとことで言えば、「ビデオプレゼン」を行うためのツールで、テレビのニュースキャスターのように、スライドや映像を後ろに置いて、それについて解説する映像を誰でも簡単に出来るようにするアプリです。 最近では、John Oliver というコメディアンが、このスタイルで時事ネタを面白おかしく解説する、Last Week Tonight というコメディー・ショーが有名です。 これまでは、こんなスタイルの Youtube ビデオを作るのにはとても手間がかかりました。１０分の映像を作るために３時間の編集作業をするようなことが普通な世界です。 Zoom ミーティングでプレゼンを行う場合には、Zoom のプレゼン機能を使って、パソコンの画面をシェアするという（プレゼンする側にとっても、見る側にとっても）不便な方法を使う必要がありますが。 mmhmm は、そのどちらも一気に簡単に解決してしまうのです。 私自身も、ベータ版をダウンロードして、試しにYoutube ビデオを一本作ってみましたが、とても簡単でした。５分ほどの映像ですが、途中で撮り直しをしたので３カットになりました。撮影前の準備と、最後に iMovie を使って一つのビデオに仕上げる時間も含めて、全部で３０分ぐらいしかかかりませんでした。 実際に作ってみて分かったことが二つあります。 一つ目は、これが「Youtube ビデオの作り方」を根本的に変える、という点です。Youtube は、色々な意味で世界を変えましたが、mmhmm は、この Youtube に上がるビデオの質を大きく変化させると思います。 テレビのニュース番組で、「アナウンサーが後ろに写真や映像を置いて解説する」というスタイルは、数十年間に渡る報道番組作りを通して作り出した、雛形・スタンダードであり、それが Youtube にやってくるのです。今後、Youtube 上の多くの「製品紹介ビデオ」や「使い方説明ビデオ」がこのスタイルに代わり、mmhmm （もしくは、その競合）が Youtuber たちにとって、「なくてはならないアプリ」になると思います。 二つ目は、ビデオ会議でのプレゼン・スタイルの根本的な変化です。これに関しては、まずは、mmhmm をバーチャルカメラとして Zoom と連携させてプレゼンする、というスタイルが普及すると思いますが、Zoom 自身がこの機能を取り込む可能性も十分にあると思います。いずれにせよ、mmhmm の誕生により、リモート・プレゼンが圧倒的にやりやすくなり、結果として、「プレゼンのために人が集まる必要がない」ことに人々が気づく時も近いと私は見ています。 ちなみに、この mmhmm のマーケティングは、大成功を納めつつあると思います。そもそも、私がここに mmhmm について書いていることが良い証拠ですが、これは、私のようなアーリー・アダプターにとってワクワクするものであるだけでなく、Youtuber やブロガーなどの発信力の高い人たち（＝インフルエンサー）に価値を直接的に提供するものだからです。インフルエンサーたちが喜んで使うものが、瞬く間に広まるのは当然のことです。 mmhmm を提供している会社は、Sequoia Capital などから $4.5 million を調達したそうです。Sequoia は Google なども含めた、数多くのベンチャー企業を育てた、シリコンバレーでもっとも実績のあるベンチャー・キャピタルです。そこが、こんなアーリー・ステージの会社に出資すること自体が、この会社がどのくらい際立っているか証明しています。