■成功体験のダークサイド
ビジネスの世界で成果をあげるためにも、人生を有意義に過ごすた
めにも成功体験は不可欠な要素だ。「自分は実行し、努力すれば、
多くのことができる・よくなる」と思うことを自己効力感という。
これが高い人は困難が生じても自分を信じる気持ちが強い。努力を
続けて困難を乗り越えていくことができる。その結果、成果が出て、
よりレベルの高い課題に取り組むエネルギーを得ることができる。
逆に自己効力感が低いと、小さな壁にぶつかっただけで「やっぱり
自分はダメだ」という心理に陥り、諦めてしまう。そして「できな
い自分」を責めて自信をなくす。そんな悪循環にはまり込んでいく。
ハイパフォーマーとローパフォーマーの違いは、スキルや知見の問
題より、自己効力感の有無やレベルの相異だ。これを育むのが「成
功体験」だ。その蓄積が成果を上げる源なのだ。
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しかし、光が差せば影が生まれるものだ。光は強いほど、影が濃く
なる。世の中の多くの事柄は、プラスの要素の中にリスクが内在す
るのだ。いわば「光と影の法則」だ。成功体験も例外ではない。
たとえば、成功体験が新しい発想や知恵を生み出すことを妨げるこ
とがよくある。そうなると、冷静な判断力を失い、状況変化に対応
できなくなる。その結果、転落の途を突き進んでいく。
「成功のダークサイド」すなわち負の側面に陥ることは、誰にでも
あり得ることだ。さらに言えば、大きな成功を体験した組織や人ほ
ど、留意するべきだ。
客観的成功分析が不足し、続けるべきことを続けず、変えるべきこ
とを変えずに続けてしまう。すると視野狭窄に陥り、判断を誤って
しまう。油断が生じて変化を見過ごしてしまう。
そして、成功を生んだ要素に束縛されて的確な判断ができない。古
今東西、さまざまな組織、人物がこうした成功体験のダークザイド
に陥っているのだ。
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ある経営者は「成功を続けている人は、成功体験を捨てられる人だ」
と言う。様々な分野・立場で成功を続ける人は、冷静に成功体験と
向き合い、環境変化に応じて柔軟に考え方や行動を変えている。
自動運転、空飛ぶ車、再生医療、そして人間だけでなく、材料に傷
ができても自発的に治すスマート・マテリアルまで、かつてマンガ
に描かれた技術が次々と開発、実用化されてくる。
スーパーコンピュータが1万年かけて解く計算問題を、わずか3分
で解く量子コンピュータが実用化されれば、その世界は一気に現実
になる。技術の進化は、あらゆるビジネスモデルを変えていく。
こうした時代に成果をあげ続けるには「過去の成功体験」に基づい
た無意識に行う思考・行動を、環境変化に合わせて書き換える習慣
を獲得することだ。
「強い者、賢い者でなく、変化できる者が生き残る」この進化論を
唱えたダーウィンの話として引用される適者生存の法則は、企業に
も、個人にも当てはまることとして理解すべきなのだ。
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成功体験の負の側面は4つに集約できる。まず「固執の罠」だ。組
織や自身を取り巻く状況が変化しているのに、過去の成功体験に固
執し、変えるべきことを変えずに続けてしまうのだ。
次に「束縛の罠」だ。成功の原動力になったリソースや価値観が、
逆に足かせとなって変化を阻んでいく罠だ。私たち日本人が特に陥
りやすいパターンだ。
そして「驕りの罠」だ。成功を収めた時、用心しなくてはならない
のは傲慢なのだ。成功のあとには、心の中に無意識のうちに驕りが
生じていくのだ。
最後が「思考停止の罠」だ。成功したことが、思考・行動上の制約
や前提となってしまうのだ。その結果、個人や組織に悪影響を及ぼ
してしまうのだ。
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