今月は、「尚古学の誕生」の後半の試訳をお届けします。話の展開は、古代ギリシア・ローマの世界から近現代の西欧の人文諸学にまでおよびます。非常に示唆に富む、とてもスリリングでスピード感ある議論をお楽しみいただけるかと思います。
第四節 ヘレニズム期の博学とその影響
ここでは詳細を説明しないが、要約するとヘレニズム期の博学には五つの系統がある――
(一)文学テクストの編集や注解
(二)個々の都市・地域・聖域・神々・慣習についての古代伝承の収集
(三)遺物の体系的な記述と碑文の複写
(四)学術的な伝記の編纂
(五)年代学
どれもヘレニズム期に誕生した新しい研究ではないし、つねに体系的な記述がおこなわれたわけでもない。今日では歴史学の中心におかれるべき主題が、博学の領分とされたのは特筆に値する。博学は過去についての証拠の原本をとりあげ、文明の起源を研究し、哲学にきわめて接近しながら、伝記を編纂したといえる。政治史家たちはこうした主題群を片すみに追いやり、幅ひろい文脈に歴史を位置づけなかった一方で、博学者たちはこうした主題を政治の展開と結びつけようとはしなかった。
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