メルマガ読むならアプリが便利
アプリで開く

【Vol.341】冷泉彰彦のプリンストン通信

冷泉彰彦のプリンストン通信
「安倍政権をどう評価したら良いのか?」  政権への私の評価ですが、かなり難しいと思います。とりあえず現時点で の評価を整理しておくことにします。  一番の功績は、右派の支持を利用して中道政策を実施したことです。具体 的には、日韓合意(先方が壊したわけですが)、譲位の成功、日米相互献花 外交、LGBTQ人権理解に一定の前進、移民拡大、対中関係と対ロ関係の 穏健な維持といった、仮に中道政権であれば右派の反対で立ち往生したテー マを、実務的に処理ができたのは大きいと思います。  一方で、3本の矢というアベノミクスについては、結局の所は第3の矢で ある構造改革が全く進まなかったわけです。これは総理本人が改革の意義を 理解していない以上仕方がないとはいえ、政官民の守旧派に利用されまくっ た7年だという批判は免れえないと思います。  外交は及第点であると思います。特にオバマ外交との協調に加えて、トラ ンプの「スキを見せれば通商や安保面で無茶苦茶を要求される」危険を、自 然体のアプローチで懐へ入り込んで、よく「かわした」のは功績です。トラ ンプに頭を下げているようで、国の威信を傷つけることはしなかったわけで、 その微妙な演技・演出については勿論、仕掛け人がいたのだと思いますが、 安倍晋三という役者はその演出にピタッとハマったのだと思います。その一 方でTPP11をやり、欧州との協調、トランプ対策でのG6首脳の結束、 対中、対ロなども含めてキメ細かく実施したという評価は可能でしょう。  一番評価が難しいのは、有権者から不思議な支持を受け、それを拡大し続 けたことです。その一方で、反対派からは、「アベガー」「アベガー」と延 々と批判され、これまた不思議なまでの反感を買ったわけです。その本質は 様々な角度から分析しておく必要があると思います。  まず支持の理由は「弱さ」と「裏表のなさ」であると思われます。良家の 御曹司、また有能な政治家の長男でありながら若い時には知的訓練ができな かった、その弱さが「知識人への嫉妬」を抱えた層の琴線に触れたのだと思 います。私にはどうもピンと来ないのですが、どうにもこうにもそう考える しかないと思います。健康不安すら支持に転じるということになったわけで すが、要するに「強さ」を誇示する人物ではなく「弱さ」を自然体で見せて いた人物だったということです。  お子さんに恵まれなかったとか、奥さんが「オッチョコチョイ」だという のも、これまた不思議に「憎めなさ」担っていたのです。では、凡人かとい うとそうではなく、勝負勘や敵味方の峻別という点では一種の迫力もあった わけです。  更に、嘘のつけない、つまりスキャンダルや強行採決など様々な局面で、 山のように嘘をついたにもかかわらず、顔にはちゃんと嘘と書いてあったと ころが支持者には歓迎されたのだと思われます。スキャンダルにしても、私 欲のためでなく、群がってくる利権の交通整理を仕切れない「弱さ」の結果 として支持者からは、落胆というより同情の対象となったし、反対派の批判 が支持者を結束させるというメカニズムが何度も何度も回転していたと思い ます。  一方で、反対派の側の憎悪というのも、これまた歴史に残る不思議な社会 現象でした。過去の長期政権においては、佐藤栄作はベトナム戦争への協力 故に憎まれ、中曽根康弘は日米軍事同盟と右派的なイメージ、そして行革リ ストラで恨みを買ったわけですが、そこには説明不能なものはあまり無かっ たように思います。  ですが、安倍さんが嫌いな人にはここまで憎まれたというのは、なかなか 分析が難しいように思います。多分その表層には、若い時の歴史修正主義的 な言動への拒否感があり、その上で「無能、無教養な人間が国の舵取りをし ている」ことへの拒絶感、素直すぎる性格ゆえに「日米の非対称な関係」な どを隠さずに露見させてしまうことで、余計に不快感を持ったのだと思われ ます。  疑似ファシズムとして、明らかに民主主義の原則を大きく逸脱しているト ランプ、ドゥテルテ、ボルソナロなどと比較すれば、安倍政権というのは 「はるかにまし」でした。にもかかわらず、同じように「アベガー」「アベ ガー」と批判され、しかも批判する側が思考停止状態であったというのは、 とにかく特筆すべき現象であったと思います。特に、産業構造改革について は、総理支持派とアベガー派は右と左の両側から妨害していたとしか言いよ うがありません。  結局、安倍さんの術中にはまって「敵味方の論理」に入っていくと、何を やっても追及しきれないし、また選挙になれば結局は安倍さんを勝たせてし まう、その繰り返しになったわけです。

この続きを見るには

この記事は約 NaN 分で読めます( NaN 文字 / 画像 NaN 枚)
これはバックナンバーです
  • シェアする
まぐまぐリーダーアプリ ダウンロードはこちら
  • 冷泉彰彦のプリンストン通信
  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
  • 880円 / 月(税込)
  • 毎月 第1火曜日・第2火曜日・第3火曜日・第4火曜日