第128号(2020年9月25日号)
『最後の調停官 島田久仁彦の無敵の交渉・コミュニケーション術』
毎週お読みくださりありがとうございます。
さて、第1部【無敵の交渉・コミュニケーション術】のコーナーでは、
今回は【ミラーリングを用いて目的を叶える交渉術】についてお話しいたします。
そして国際情勢に目を移すと、今週はいろいろな案件が進行中です。
一つ目は、やはり国連総会の首脳ウィークでしょう。
今年はコロナ禍の影響で75年目にして初めてのバーチャル開催になってしまいましたが、
米中間の対立をはじめ、マルチに様々な“争い”が繰り広げられています。
総会自身では大きなことは起こりませんが、ここで各首脳が述べた内容は、その直後の国際情勢を占う上で非常に注目です。
ゆえに【2】のコーナーでお話ししたいと思います。
二つ目は、新型コロナウイルス感染症に対するワクチンを巡る国際情勢と各国の攻防です。
米・中国・ロシアがそれぞれにワクチン開発を進め、リードする中、
WHOと156か国の参加を得てCOVAXファシリティが設立されました。
米中露は“バランスを考えて”不参加と決めたようですが、
2021年までには20億回分のワクチンの提供を目指すとする【国際協調の最後の望み】的な動きかと思います。
日本もEU諸国も参加していることで、出足が遅れていたワクチン開発とワクチン外交でリーダーシップを発揮する
絶好の機会と見るべきか、主要国が不参加ゆえに実効性はないと見るべきかはまだ分かりませんが、今後要注目です。
三つ目は、このメルマガでも何度も触れた【混乱の地中海とEUの分裂の可能性】についてです。
本件の主役はエルドアン大統領のトルコですが、キプロス周辺の東地中海にあるガス田探査の権利を巡り、
ギリシャとトルコが共に領有権を主張して争うきな臭い事態になっています。
そこにギリシャの肩を持ちつつ、自国企業(Total)のガス田探査での利権を守る観点からフランスが
トルコ批判の急先鋒となっており、ギリシャと共に周辺海域で軍事演習を強行する事態になり、一触即発の事態に陥っています。
しかし、フランスの盟友たるドイツは、自国におけるトルコ人勢力の存在と、
シリア難民の欧州への再流入のカギをトルコが握ることから、フランスの動きを支持しない方針になっており、
すでに欧州内の主要国間での分裂が見て取れます。
ここでキプロス自身も、EUの遅々として進まない対トルコ制裁に業を煮やして、
同じくEUが苦心しているベラルーシ問題への対応において、
対ベラルーシ制裁をブロックすると脅しをかける事態になっています。
完全なる欧州の分裂です。
当のエルドアン大統領は、「対話での解決は可能」とし、9月22日にはギリシャとの間で協議を行うことに合意しましたが、
両者の主張が平行線を辿っている経緯から察するに、合意は難しく、
トルコは恐らく【シリアカード(シリア難民のEUへの流入を黙認する)】、
【ギリシャとフランスとの開戦】、または【国内にあるNATO軍基地の封鎖】などのカードを切り、
全面対決になだれ込んでしまうかもしれないと憂慮しています。
こちらも、今後触れる中東でのreshuffleへの影響が大きいため、要注意です。
四つ目は、【近々開戦する可能性が高まったイラン情勢】です。
トランプ大統領主導で、イスラエルとUAE, バーレーンとの間での国交正常化が図られ、
対イラン包囲網が強化されていますが、
その反面、同盟国(日本、EU、カナダ、豪州、NZ)からは対イラン制裁への参加を見送る旨、発表され、
アメリカは単独での制裁発動に踏み切ることとなりました。
所詮、中東ディールも、対イラン強硬策も、トランプ大統領の再選のためのアピールにすぎないとの見方もありますが、
対中戦争が掛け声だけで起こらないだろうと予測されるのに対し、
アメリカの国内感情やイスラエルが歴史的に抱えるイランへのライバル心と恐怖心などに後押しされて、
一度動き出したら止めることが不可能な泥沼の戦争になる可能性があります。
ここで、イラン側のバックには、中国とロシアがしっかりとついていますので、
中東を舞台にもしかしたら世界的な戦争の縮小版が勃発するかもしれません。こちらも要注意でしょう。
五つ目は、なかなか解決策が見当たらない【漂流するロシア外交とドイツの苦悩】です。
反プーチンのナワリヌイ氏がドイツに向かう機内でノヴィチョク系の猛毒神経剤によって暗殺されかけ、
ベルリンで病院に収容された問題で、ドイツ・メルケル首相の対ロハンドリングが非常に複雑な様相を呈してきました。
エネルギー安全保障上(ノードストリームII)、ロシアとの友好関係は逃せないドイツの苦悩と、
シリア問題の解決にはロシアとの協力が不可欠であるというジレンマ、
しかしロシアによる相次ぐ脱法行為は看過できないという批判。ドイツは苦境に立たされています。
またロシアもコロナ下で、外交的な影響力が低下しており、
何とか国際情勢における“主要国”の地位を死守すべくあの手この手と打っているようです。
アメリカとの新START (新戦略兵器削減条約)の延長を巡る駆け引きもその例です。
ロシアは、勢いは弱まったとはいえ、やはり国際情勢においてはkey playerですので、今後の状況に注目しておくべきでしょう。
今回もいろいろなお話しをしますが、どうぞお付き合いくださいね。
それでは今週号、スタートします★
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