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【死んでも書きたい話】 「払っちゃいかん」「断固無視しろ」「無事帰る」

安田純平の死んでも書きたい話
今回は2016年1月1―19日までの日記です。 このころの日記には暗号について書かれているので、奴らに没収されてもばれないよう、のちに原本を廃棄し、抜粋したものを書き写して残してあります。 したがって内容が省略されているほか、日付が飛んでいる箇所もあります。 よろしくお願いいたします。 【2016年1月1日(金曜日)】=拘束188日目 昼、自称イエメン人アブドゥル。無言で仕草で「なぜくれてやった服を着ない?」と。「とっておきたい」と言うと、「今着ろ」と命じてくる。茶2杯入れ、「トイレ行け」。戻る時に尻を蹴られる。「日本が連絡を断った」というから、やはり暴行始まったか。 NHKは日本の話中心。日本の宣伝だから、つまり建設的な話が中心。アルジャジーラ(AJ)は対照的に破壊的な話。それを表に出すことで新たに建設されていくわけだが。 戦争の虚しさの中にはまり込んだ今回、殺すか殺されるかの虚しさ、虚無感に襲われている。多くの先輩記者が現場から離れていった。その虚しさに嫌気がさしたからという人は多い。それでも十分な実績つくった達成感はあるだろう。オレはそれすらできず虚しさだけを知って去ることになるのか。 殺せと言われれば誰でも殺し、適当な理屈で正しいと思い込む人間性の崩壊こそ戦争の最大の罪。 ※この日、拘束者側の人物から妻にメールが届いていた。 《あなたの夫があなたの電話番号とeメールアドレスを自分で書いた。拘束者は、日本政府は非常にのんびりと構えている。彼らは様々な方法で日本政府に接触したが、今に至るまで何の進展もない。彼は安全だ。彼は、彼の人生における特別な事柄について自分でメッセージも書いた。 私は、拘束者側の仲介人であるアブワエルに頼まれた際に日本政府に連絡を入れている。 アブワエルの電話番号 彼のスカイプ》 送ってきたのは、欧米メディアの通訳をしているというムハンマド・ムーサと名乗る人物で、自分のトルコの携帯番号とスカイプアカウント、フェイスブックのページとメールアドレスを書いてきている。 メールには、12月6日に書かされた暗号入りの個人情報の紙と、30日に書かされた妻の電話番号とメールアドレスの入った紙の画像が添付されていた。妻はこのメールをすぐに外務省邦人テロ対策課の担当者に転送している。外務省はアブワエルからの接触を最後まで無視し続け、のちにアブワエルはこの案件からの撤退を宣言する。 アブワエルはクルド系のシリア人で、アルカイダ系ヌスラの元メンバーとされる。この後、私の画像や映像をメディアに渡していたが、自分では英語を話せないので別の英語をできる人物を伴っていた。メディアに出ていたのはメールを送ってきた人物ではなく、別のタリクと名乗る人物。 このムハンマド・ムーサはツイッターでも現在も書き込みを続けており、スカイプも通じる。「あくまで自分は頼まれて代わりにやっていただけ」と言い、隠れてもいない。 当時、妻がメールに返信し「アルカイダ系ヌスラから頼まれたのか」と聞くと、「ヌスラではなくアブワエルから頼まれた。アブワエルがヌスラと接触している」と答えているが、解放後の2019年2月ころスカイプで連絡を取った日本の記者に対しては、「ヌスラではない」と変えている。 妻が「ヌスラ」を確定した前提事実として聞いているので、そのまま合わせるようにして「ヌスラ」を前提に答えていた能性もある。また、解放後にヌスラの後継組織「ハイヤット・タハリール・シャム(HTS)」が関与を否定したので、ムハンマド・ムーサもそれに合わせて否定したのかもしれない。 シリアでヌスラに人質にされた欧米人は家族に対して身代金の要求が来ていて、具体的な金額まで記されているが、私の場合はこのメールだけで、身代金はおろか何かを要求しているかどうかも不明な内容だ。メディアは私の件もヌスラによる拘束と報じているが、同じ組織にしては手法が違いすぎる。 メディアは、元ヌスラの同じ仲介者であるということで私の件と他の欧米人の件は同じヌスラであるとみているようだ。しかし、シリアでは外国人記者や支援関係者の人質事件はISによるものを含めても数十件であるのに対し、現地人の誘拐事件は2桁は多いとみられている。数百はあるといわれてきた反政府側組織は末端まで統制がきいていたわけでもなく、反政府運動を装って恐喝や誘拐を繰り返す集団や全くの犯罪者集団も反政府運動が始まった初期から暗躍してきた。 拉致誘拐が初期から多発していたことについて、参考になる報告もある。

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  • 安田純平の死んでも書きたい話
  • ジャーナリスト安田純平が現場で見たり聞いたりした話を書いていきます。まずは、シリアで人質にされていた3年4カ月間やその後のことを、獄中でしたためた日記などをもとに綴っていきます。
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