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週刊 Life is Beautiful 2020年10月6日号

週刊 Life is beautiful
今週のざっくばらん Ruch Bader Ginsburg 米国に7人いる最高裁判事の1人、Ruth Bader Ginsburg氏が9月18日にお亡くなりになりました。87歳でした。 その時点で、「もう少し長生きして欲しかった」「やはりオバマ政権の時代に彼女は引退すべきだった」などの声が多くのリベラルなメディアから発せられましたが、出来た空席を埋めるべく、トランプ大統領は9月26日に、Amy Coney氏を候補として指名すると、その声は「最悪の事態になった」「米国の将来は暗い」へと変わりました。 この交代劇が何を意味するかを理解するには、日本人には馴染みのない米国の司法システム(というか、国のあり方そのもの)を理解する必要があります。 まず第一に、アメリカ合衆国という国の根幹をなすのが「合衆国憲法」である点が重要です。こんな話をされてもピンと来ない人が多いと思いますが、この国の人々を「自由の国の国民」として一つに結束させているのが「合衆国憲法」であり、それこそが米国のアイデンティティなのです。 これは、日本のように(島国であるが故に)国境がはっきりと定まっており、天皇という象徴があり、大和朝廷まで遡れば2000年近く(神武天皇まで遡れば2700年近く)の歴史を持つ国とは大違いなのです。日本国憲法は「米国から押しつけられた憲法」でしかないと考えている日本とは、憲法に対する国民の思いが大きく違うのです。 憲法の役割は、国民の権利を明確に定め、専制政治(支配者が独断で思いのままに事を決すること)を防ぐことにあります。そして、その法の番人が司法であり、その頂点に立つのが、7人の最高裁判事なのです。 しっかりとした三権分立(立法・行政・司法)の仕組みが作られている米国では、司法が大統領命令(行政)や国会(立法)が作った法律に対して違憲判断をすることもしばしばです。日本の司法は、米軍基地や原発のような政府と国民が対立する問題に関しては、「行政が決めるべきこと」として判断を避けていますが、米国では、まさにそんな問題こそが、最高裁で争われ、それを判事達が(政府の顔色を見てではなく)憲法の基づいて判断するのです。 とは言え、大統領や国会が司法に対して影響を与えることが出来るチャンスが何年に一回かやって来ます。7つある最高裁判事のポストが、本人の意思による引退もしくは死亡により空席になった時です。大統領には空席を埋める最高裁判事の候補者を選ぶ権利があり、国会にはそれを承認、もしくは否認する権利があるのです。 しっかりと書かれた合衆国憲法とは言え、「解釈」の余地はあるため、どんな人を最高裁の判事に選ぶかで、結果は大きく異なります。特に、合衆国憲法が書かれた時代と今では、人々の考え方や常識も大きく変化しているため、その変化をどこまで取り入れた上で解釈するかは、判事によって大きく変わるのです。 当然ですが、保守的な(=共和党の)大統領や国会議員は、保守的な考えを持った人を最高裁判事に選ぼうとするし、革新的な(=民主党の)大統領は国会議員は、逆に、革新的な考えを持った人を選ぼうとします。 Ginsberg 氏は、民間の弁護士として働いている時は、女性差別と闘う弁護士として大活躍をしました。当時(1970年代)は、米国でもあらゆるところで女性差別が堂々と行われていましたが、「憲法で保証されている人権は女性にも適用すべき」というシンプルな信条に基づき、数々の訴訟を勝ち抜いて、世の中を大きく変えました。 私は常々、女性差別に関しては米国は日本の20〜30年を走っていると話して来ましたが、そんな状況を作り出すのに大いに貢献したのが、Ginsberg 氏だったのです。

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