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【Vol.346】冷泉彰彦のプリンストン通信

冷泉彰彦のプリンストン通信
「大統領の健康状態を誰も信じないという危機」 (前略) 大統領の容体が気になります。公式発表では「マイルド(軽症)な症状で、 数日この病院に滞在の見込みということでした。ご丁寧に「ヘリに乗り込む 大統領」の映像、また「自分で語ったビデオ映像」は3回流されています。 驚いたのは、4日(日)の午後、旗を振りかざしたトランプ派の支持者に感 謝するためと称して、リムジンで「外出」したという演出です。一部のSP 関係者は激怒しているという報道もあります。  そんな中で4日から5日にかけては、「5日中に退院」という話が出てき ており、「御殿医」からも5日の夕方6時半に退院という話が出ています。 正に本稿の配信タイミングということで、何とも気になるわけですが、これ まで報じられてきた「治療」の内容を総合すると、全くそんな退院どころで はない病状の可能性もあるわけです。  まず、大統領は金曜日には高熱があり、2度ほど血中酸素濃度が低下した と報じられています。また主治医は肺のCT映像などで炎症が見られたらし いという示唆もしています。その一方で、治療薬としては主として、 1)リジェネロン社製のカクテル抗体REGN-COV2 2)RNAウィルス攻撃剤のレムデシベル 3)コルチコステロイド剤のデキタメタゾン  の3つを投与されているという情報があります。この中で2)は理解でき ます。発熱があり、肺にも恐らくはすりガラス状の陰影が認められたのであ れば、早い段階でレムデシベルを投与して救命ができたという症例はあるし、 そもそもレムデシベルは米国でスピード承認されているからです。  問題は、1)と2)の併用です。この2つは同じようにRNAウィルスの 増殖を抑制するために使用されるものですが、併用時の効果やリスクについ ては十分な症例はないと思われます。そもそも、1)についてはCOVID19 罹患者の血中に出来た抗体を収集して、ウィルスへの攻撃力の有りそうな数 種をコピーしてブレンドしたもので、ウィルスへの攻撃のメカニズムは完全 に解明されているとは言えません。  一方のレムデシベルですが、アビガン(ファラフィラビル)などと違って、 亀の子の大きな薬剤ですが、そもそもはエボラ出血熱ウィルスを攻撃するた めに開発された薬剤で、エボラに関しては効果が今ひとつ検証されていませ ん。今回は、COVID19に対しては有効というデータがあって、承認された のですが、一体どうやってウィルスを攻撃できているのかメカニズムはこれ も完全には解明されていません。ですから、この1)と2)の併用というこ とのリスクは大変に気になります。  もっと疑わしいのは3)が併用されているという点です。3)はステロイ ド剤ですが、主たる使用目的は炎症反応症候群、つまり免疫システムが暴走 して、例えばサイトカインという物質が過剰に放出されるなどの反応から、 全身の状態が悪化する、つまりサイトカインストームなどを防止するために 使用します。  ウィルスに対して身体が防御行動を行うのが免疫で、その暴走を抑制しな くてはならないというのは、ウィルスの活動が活発化して、これに対する身 体の免疫活動も活発化した状態にしか当てはまりません。ですから、通常は 酸素吸入などの段階になった患者に投与することになっており、その前段階 の、従ってウィルスの活動が始まったばかりの患者には効果はないとされて います。  もっと言えば、1)2)に対して3)は反対方向の薬剤とも言えます。で すから、この3つを同時に入れているということになれば、治療としてはメ チャクチャということになります。  そこで浮かび上がっているのが、重病説です。発表されているのより早い タイミングで発熱もあり、熱中酸素濃度の低下もあり、また肺の陰影も確認 されて早い時期に2)から1)の投与をやった、だが、更に病状は進んだの で金曜日の時点では相当な酸素吸入になり、そこでサイトカインストームに よる突然の多臓器不全が怖くなって3)も入れたというストーリーです。  勿論、そうなっても人工肺の使用などによって時間をかけて肺の再生を待 つ療法は、世界中で多くの患者の救命に成功していますから、大統領死亡と いう可能性は極めて低いと思われます。  ですがトランプとしては、膜型人工肺(ECMO)については可能な限り 使用したくないはずです。ECMO使用ということは、イコール長期間の全 身麻酔ということになり、そうなると憲法修正25条により大統領権限を副 大統領に移譲することになるからです。  ということで、勿論トランプは死にたくないでしょうが、ECMOもやり たくない、その前に軽症で済んで欲しいということを強く願っていると考え られます。難しい薬剤を3つもブチ込んでいるという治療法はそうした姿勢 の反映と考えることもできます

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  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
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