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【死んでも書きたい話】 銃を突きつけられてシモの毛を剃らされる

安田純平の死んでも書きたい話
今回は2016年1月20日から同3月4日までの日記です。 解放から2年がすぎました。あらためて、ありがとうございました。 【2016年1月20日(水曜日)】=拘束207日目 外からガソリンのような、ストーブから灯油が漏れているような、とにかく油臭い。自称シリア人の見張りアハマドにストーブの灯油タンクを撤去するように言うと、アハマドと自称イエメン人アブドゥルが何か話している。アブドゥルが「ペトロール(石油)」と言っている。このあたりは車通りが多く、ときどきクラクションを鳴らして誰かを呼んでいる音が聞こえる。ガソリンスタンドが近くにあり、ガソリンを補給していたのでは。その後、臭いはなくなった。 映画「Something Borrowed(邦題:幸せのジンクス)」は結婚直前の男友達と、好きだったが親友に取られた女の話。ものごとにはまだやり直しのきく時期というのがある。オレはイラク行く前後がそうだった。 おくは今どういう心境なのか。どんな気持ちで待っているのか。もういつ死体の画像が出てもおかしくない。オレがこの間の心情になって初めて知ったことがあるように、おくもなったものか分からない心境を味わっているのだろう。 【2016年1月21日(木曜日)】=拘束208日目 いつまで続くのか。生きて帰れるのか。今はその一点。かなり精神的に疲れて、今はかえって怠惰なことがしたい。マンガ読むとか。結局変わらぬ生活することになるのか。やりたいことリストは意地でもクリアしたい。帰ったら人生変わるだろうか。変えないと。周囲は変わるのか? 【2016年1月22日(金曜日)】=拘束209日目 監禁7カ月。交渉は完全に頓挫しているので、いつ帰れるか殺されるか、と思い、頭の中で交差している。解放される気でいるが、辛いことになる可能性もある。考えても仕方ないので、帰ったら何したいか考える。母校の学園祭にも久々に行ってみたい気もする。前向きでないと時間を過ごすのがつらい。 生存証明は、おくがとにかくオレが生きているか知りたくて取ったのだろう。しかし生きていると知ったところで何もできない。政府は拒否なのだから。それを奴らに伝えたらそこで終わり。無視する以外にない。奴らアホだからそれも分からんのだろう。このカウントダウンがどうなるか。生か死かの2択はさすがに怖い。殺す必要性こいつらにあるか?政治アピールを今さらやる?セキュリティのためとか言う? 【2016年1月23日(土曜日)】=拘束210日目 23:00すぎのノック無視でかなりやばい。遮蔽物のない部屋でボトルに小便は無理。フルチンになったがボトルを水平にするしかなく、布団に座ってやるのは無理。こぼれるに決まっている。奴らも動いている音。気づいた? ズボンを着替えてうずくまっていると、自称シリア人の元司法書士ジャシムが急に来てトイレ。「忘れてた」と。イスラム国(IS)の場合、垂れ流していても放置された人もいる。一応気にはするなら殺さないか?などと期待する。DV被害者のような心境か。虐待された後に、たとえ当たり前のことでも普通に接せられると信頼してしまうこともある。本来信頼すべき人にやられる人々の苦しみはオレの比ではないだろう。 帰ったら雑誌に書いてストックホルム症候群など詳しい人にちゃんと取材しよう。 【2016年1月25日(月曜日)】=拘束212日目

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  • ジャーナリスト安田純平が現場で見たり聞いたりした話を書いていきます。まずは、シリアで人質にされていた3年4カ月間やその後のことを、獄中でしたためた日記などをもとに綴っていきます。
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