週刊 Life is Beautiful ２０２０年１１月１０日号

今週のざっくばらん オペレーティング・システムの地政学（３） 先週は、パソコン向けのOSの話を書きましたが、今週はスマートフォンに代表されるモバイルOSについて書いてみます。 Magic Cap Magic Cap は、General Magic という会社が開発していたタブレット型のデバイス向けのOSです。Telescript と呼ばれる言語で書かれたスクリプトを通信先（別の端末やサーバー）に送りつけて実行してもらい、結果をもらうという「モバイル・エージェント」機能を持つのが特徴でした。 General Magic は、Appleで Macintosh の開発をしていた Bill Atkinson、Andy Hertzfeld、Marc Porat の３人が１９９０年に作った会社です。彼らは、Apple 内で Looking Glass （資料によっては Pocket Crystal） というタブレット型のデバイスを開発していましたが、経営陣のサポートが得られずプロジェクトのApple社内での続行が不可能になると、Apple、Sony、Motorola から出資を受けた別会社として General Magic を作ったのです。 General Magic は、Sony、Panasonic、Philips、Motorola、British Telecom、AT&T などの錚々たるメンバーと契約を結び、Magic Cap を搭載したSony Magic Link、Motorola Envoy などのデバイスをOEM先から１９９４年にリリースしましたが、どれも市場では失敗に終わりました。 General Magic に関しては、「General Magic」というドキュメンタリー映画が２０１８年に作られました。この映画を見ると、素晴らしいビジョンを持った会社だったし、優秀な技術陣を持っていたことが良く分かります。しかし、残念ながら、株主である Apple の Newton と競合することになったことが大きなダメージになりました。 General Magic は、１９９５年には事業を縮小して新しい方向を模索しましたが、成功せず、２００４年に廃業しています。 Newton OS Newton OS は、Apple が１９９３年にリリースしたNewtonに搭載されていた OS で、手書き入力機能があるのが特徴でした。当時としてはとても画期的なデバイスでしたが、値段が高く、手書き入力の精度も低かったため、市場ではそれほど成功をしませんでした。 当時、Apple の CEO だった John Sculley は、General Magic の取締役の座についており、General Magic の社内の事情を良く知りながら、それと真っ向から競合する Newton の開発を Apple 側で進めていたことは、General Magic 側からは激しく批判されたそうです。 しかし、１９９７年にPalmPilotがリリースされると、Newton は一気にマーケットシェアを失い、Steve Jobs が１９９７年に復帰して間もなく、キャンセルされてしまいました。Apple は２００７年に iPhone でこの市場に再び参入して大成功を納めますが、元々は （スマートフォンである）iPhone ではなく（Newton の後を注ぐ） iPad として開発されていたことは良く知られています。 iPhone/iPad は、その完成度の高さゆえに大成功しましたが、「十分な完成度のものが出来るまでは市場に出さない」というSteve Jobsのポリシーが徹底的に適用されたとても良い例となりました。 Palm OS Palm OS は Palm Inc. が１９９７年にリリースしたPalmPilot向けに作られた OS で、Newton と比べると、小型で安価で、かつ手書き入力の性能が格段に高かったために（Graffiti という入力方式のおかげです）、市場で大成功を納めました。その時代のハードウェアの性能を最大限に引き出すソフトウェアが作られ、それが市場のニーズとマッチしたからこその成功です。 Palm Inc. は元々は、Newton や General Magic 向けの手書き文字認識ソフトを開発しているソフトウェア会社でしたが、U.S. Robotics Corp に買収された後、そのソフトウェアの技術を生かした PalmPilot というハードウェアを出しました。PalmPilot と Newton の一番の違いは、手書き入力の質だったことを考えると、「ライバルが持っていないソフトウェア技術」がいかに重要かが良く分かります。 U.S.Robotics が１９９７年に3COMに買収されると、会社の方向性に不満を持った Palm の創業者たちが Handspring という会社を作り、Palm Inc. から Palm OS をライセンスして、Visor というブランド名で PDA を販売し始めました。