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【Vol.351】冷泉彰彦のプリンストン通信

冷泉彰彦のプリンストン通信
▼第351号                      2020/11/10 「いい加減にしていただきたいハンコ業界」  河野太郎大臣が「押印廃止」のハンコの写真をツイッターに投稿したこと で批判を浴び、その後、投稿を削除する事態になったとして、フジサンケイ などのメディアの保守層狙いの記事にされているようです。  具体的には、ハンコの生産地である、山梨県の知事や、ハンコ業界の代表 者たちが、自民党の「2F」こと二階幹事長に要請書を提出したというもの で、要請書では、河野大臣を厳しく糾弾し、画像を投稿した理由の説明を求 めていたようです。  報道によれば、 全日本印章業協会の徳井会長は、 「政治家として、人として、いかがなものかと。われわれ業界人にとっては、 非常に腹立たしい。ただそれだけです」  と述べているそうですし、全日本印章業協会による要請書には、 「わたしたちが心血を注いで作っている印章に『押印廃止』という文言を彫 り、それをプレゼントする平井大臣と楽しそうな写真をTwitterにあげる河 野大臣の蛮行は印章業界を愚弄(ぐろう)する行為に他なりません。政治家 としての資質が欠如しているのではないかと判断せざるを得ません」  というような文言が使われています。  冗談ではありません。  ハンコがあるために、コロナ禍の中でも「ハンコを押しに行かねばならな い」とか「ハンコのために原本のやり取りがあり、職場に郵便物を取りにい かねばならない」というような理由で、全国のほとんど全ての企業で、総務、 経理、人事などのアドミ部門の人々は、出勤を強いられていたのです。  どんなにその産業が「脱モノ化」がされていて、知的労働が主となって在 宅勤務が可能になっていても、そうしたアドミ部門の人々は、それでは全て が完結しない、そうした危険を冒して出勤をしていたのです。  ではコロナ禍から脱すればいいのかというと、そんなことはありません。 ハンコがあるために、原本が重視され、ペーパーレスが実現しない、そのた めに日本の事務仕事は世界の先進国の中で最も生産性が低いのです。  やたらに対面コミュニケーションをするとか、日々の業務に関係のない全 社レベルの社内会議・行事に引っ張り出されたりということもありますが、 とにかく低生産性の元凶は「原本主義」にあるわけで、その原因のかなりの 部分にはハンコによる認証という問題があるわけです。  つまりハンコは全国の何十万というアドミ部門の人々の生命を危険に晒す だけでなく、日本経済そのものを衰退へ追い込む元凶だと言えます。  山梨の人々が言う、「腹立たしい」「人としていかがなものか」「蛮行」 「愚弄」という言葉は、それこそ100倍、1000倍にしてお返ししなく てはなりません。

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  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
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