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週刊 Life is Beautiful 2020年11月25日号

週刊 Life is beautiful
今週のざっくばらん RCEP 11月15日にRCEP(Regional Comprehensive Economic Partnership、東アジア地域包括的経済連携)がASEAN10ヵ国(ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)および、オーストラリア、中国、日本、ニュージーランド、韓国の間で署名されました。 ちなみに、この分野の専門家でもない私が、RCEPに関して書くのは、今後の世界経済を考える上で無視できない話であり、私自身がちゃんと理解する必要があると感じているからです。以前にブログで書いたことがありますが、何かの理解を深める一番の方法は、それについて人に説明することです。 RCEP の目的は、これらの国の間の物資の流れをスムーズにすることにあります。現在は、国ごとの協定(FTA)で異なる関税やルールが設定されていますが、それを RCEP により一本化することにより、複数の国をまたいだサプライチェイン(完成品を作るのに必要なさまざまな部品の調達ルート)を構築することが容易になります。 似たような協定にTPP(Trans-Pacific Partnership Agreement、環太平洋パートナーシップ協定)がありますが、いくつかの本質的な違いがあります。 まず第一に、TPPは、意図的に中国を排除した上で、(最後に抜けてはしまいましたが)米国を含めた環太平洋の国々の間で大きな経済圏を作ることを目的に作られた協定です。途中から参加した米国の影響で、関税などの貿易協定だけでなく、特許・著作権保護、人権や労働条件、ISDS条項(国外の企業が国家を訴訟する権利)など、それぞれの内政にまで深く入り込んだ協定で、中国が参加することを実質的に不可能にしています。 TPPと比べると RCEP は、ASEAN手動で始まった国際協定で、関税の引き下げや輸入手続きの簡略化などにフォーカスしています。TPPとは逆に、途中から参加した中国が実質的な主導権を握っています。そのため、中国が他の国では許されないような過酷な労働条件で安く作ったもの(例えば、宗教を理由に拘束したウイグル人を強制労働させて作ったもの)、海外の企業が持つ著作権や知的所有権を侵害する物(例えば、ディズニーから許可をもらわずに作ったミッキーマウス柄のT-シャツ)などでアジア市場を席巻してしまうのでは、と心配する声も聞かれます。 TPPとRCEPのそれぞれの交渉は並行して進んでいましたが、RCEPが成立してしまうと、中国を中心としたアジア+オセアニア経済圏が出来てしまうことを懸念したオバマ大統領が、TPPを積極的に進めていた、という背景もあるそうです。 にも関わらず、トランプ政権になると米国がTPPからの脱退を決め、TPPの影響力はとても小さいものになってしまいました。それが結果的に、RCEPの相対的な価値を高め、今回の署名に繋がったことを考えると、トランプ政権の犯した(TPPから脱退するという)過ちは、今後ボディ・ブローのように効いてくる可能性はあります。 RCEPの署名が、米国の大統領選と大統領就任式の間という、政治の空白期間に行われたことには大きな意味があります。大統領選前であれば、トランプ大統領が日本に大して「RCEPに署名することは許さない」と圧力をかけてきた可能性は十分にあるし、逆にバイデン氏の就任後であれば、「TPPへの参加」によりRCEPの意義を薄めることも可能だったと思います。 これからでもバイデン氏がTPPへの参加を表明する可能性はありますが、RECPが成立してしまった今となっては効果は半減だし、内向きになってしまった世論がそれを許さないと思います。 RCEP にとって、唯一の懸念は、中国からの安い物資が流れ込むことを嫌ったインドが離脱してしまったことにありますが、RCEPは中国の中国を中心とした大経済圏を作ろうという「一帯一路構想」へ追い風となることは間違いないし、米国による中国に対する経済制裁を難しいものにすることも事実です。 参考文献:日本のTPP貿易、RCEP貿易 ~TPPによる対米輸出への影響~ 【追記】上の記事を書いてすぐに、今度は中国がTPPに参加したがっているという情報が入って来ました(中国 習主席 TPP参加に意欲示す 米離脱で主導したい狙いか)。上に書いたように、TPPには中国が参加しにくい条項が入っていますが、米国が抜けた今となっては、中国がリーダーシップをとってその手の条項を外してから入るということなのでしょうか。あえて、米国が不在のうちに TPP に参加して主導権を奪った上で、RCEP と融合させるという戦略と解釈したくなります。 本来ならば米国政府は、これらの動きに対してなんらかのアクションを起こすべきですが、トランプ氏が素直に負けを認めずバイデン氏への業務引き継ぎを拒否するという前代未聞のことをしているため、「大統領選後の政治の空白状態」の時期が長引く、というとても困った状況になっています。

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