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週刊 Life is Beautiful 2020年12月1日号

週刊 Life is beautiful
今週のざっくばらん AIは人から職を奪うのか? 先日、PBSの「In the Age of AI」というドキュメンタリー番組を見ました。特に新しい情報を仕入れたわけではありませんが、バックグラウンドの情報などが良くまとまっているので、見る価値はある番組です。Youtube で無料で公開されているので、日本からも見る事が出来ると思います。 ここ数年、「AIは人から職を奪うのか?」というトピックはさまざまなところで取り上げられます。「専門家」と呼ばれる人たちの多くが、「奪われる職もあるけど、新しく生まれる職もある」と言ってAIを擁護するため、分かりにくい部分もありますが、ほとんどが(AIのイメージを悪くしたくない)ポジショントークだと考えて良いと思います。 結論から先に言えば、AIは人から職を奪います。それも大量に。産業革命が多くの労働者から職を奪ったように、AIは、さまざまな産業で、これまで人手でしか出来なかったことを、機械化・自動化することを可能にします。それも、人間に任せるよりも、はるかに安く、安全に、正確に行うようになるのです。 ただし、AIだけに焦点を当てるのは間違っています。これは、80年代の後半から始まった、第三次産業革命とも呼べる、コンピューターとインターネットを活用したデジタル・情報革命という大きな流れで捉えるべき事象なのです。 80年代後半と言えば、日本の不動産バブルの頂点で、それ以降、日本は失われた20年(もしくは30年)と呼ばれる低成長期に入りました。米国は逆に、GAFA に代表されるグローバル IT 企業を生み出しましたが、その中核にあるのが、デジタル・情報革命なのです。 この30年間、米国は労働者一人当たりの生産性を大きく上昇させましたが、これは主にコンピューターやインターネットを活用することにより達成しました。テクノロジーの導入により、より多くの仕事が自動化できれば、少ない人数でより多くの売り上げを上げることが出来ます。生産性の向上とは、まさにこの話なのです。 この時期にも、コンピューターやインターネットは多くの職を人から奪いましたが、幸いなことに同時に経済全体も成長したため、失業者を増やすこともなく、あまり大きな問題にはならなかったのです。 しかし、実際には情報革命により中間層の仕事が奪われ、彼らが最低賃金のサービス業で働くしな亡くなった結果、テクノロジーを上手に使いこなして生産性を上げた側の人々に富が集中し、貧富の差が大きく開く、という現象が米国では起こりました。 一方、日本では、ほとんど生産性の向上が見られませんでしたが、その背景には日本の「正社員を解雇しにくい」という雇用規制があります。テクノロジーの導入によって業務を効率化しても、人を解雇することが出来なければ、コスト削減(=生産性の向上)に繋がらないからです。 つまり、日本の雇用規制が、生産性の向上を阻害し、結果として日本企業の国際競争力を奪った、という面があることは否定出来ないのです。 そんな中で苦肉の策として行われたのが、小泉政権による派遣法の変更です。小泉政権は、それまで禁止だった製造業および医療業務への派遣の解禁や派遣期間の延長などを行いましたが、この規制緩和は、「正社員は解雇できない」という解雇規制に縛られている企業に、必要に応じて解雇できる派遣社員という道具を与えるために行われたのです。 これにより日本には、解雇される心配のない正社員と、そうでない派遣社員という階層構造が社会に作られてしまったのです。米国とは少し違う形ですが、貧富の差を広げることになりました。 AIはこれから社会のさまざまな場所に導入されますが、それは過去30年間に続いて来た「情報革命による生産性の向上」と「貧富の差の拡大」をさらに加速することになります。 上に紹介したビデオには、「これから15年の間に50%近くの職がAIによって奪われる」という経済学者の発言が紹介されていますが、とても現実的な数字です。 日本のように雇用規制のない米国では、それは確実に失業者もしくは最低賃金の仕事に追いやられる人々を大量に生み出します。雇用規制がある日本の場合には、「派遣社員の比率が増える」という形で具現化すると思いますが、実質的には同じことです。「大学を卒業した学生の半分以上が定職につくことが出来ない」時代はすぐそこまで来ているのです。 こんな暗いことばかり書いていると誤解されそうですが、私は AI の導入に反対しているわけでもないし、AIの研究に否定的なわけでもありません。資本主義社会の中で、企業が経済活動をしている限り、最新の技術を使ってコスト削減し、事業を効率化しようとするのは当然であり、それを否定していては、人類の発展はありません。

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