存在感を増す「軍事大国ロシア」を軍事アナリスト小泉悠とともに読み解くメールマガジンをお届けします。
【目次】
●インサイト 北方領土に配備された新型防空システム どこから、何のためにやってきたのか?
●今週のニュース テルミナートル戦車駆逐車の配備、極東とカリーニングラードでの軍事力増強、アゼルバイジャン軍の戦死者
●NEW BOOKS ロシアの非核「エスカレーション緩和」論 ほか
●NEW CLIPS ナゴルノ・カラバフに地雷除去ロボットを投入
●編集後記 煉獄さんかっこいい
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【インサイト】北方領土に配備された新型防空システム どこから、何のためにやってきたのか?
北方領土にS-300V4を配備
ロシア軍では12月1日から冬季訓練期間が始まるため、その前後には色々と新しい動きが報じられます。軍の現状や今後の見通しに関するある程度まとまった発言が出てくるとか、大規模演習が始まるとか、あるいは新型兵器やインフラの引き渡しなどです(「今週のニュース」のコーナーを参照)。
その中で今年、最も目を惹いたのは、「クリル諸島」にS-300V4防空システムを配備したという東部軍管区発表でしょう(
https://function.mil.ru/news_page/country/more.htm?id=12327785@egNews)。その全文は以下の通りで、ごく短いものです。
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東部軍管区の高射ロケットシステムS-300V4がクリル諸島で戦闘当直に就いた
東部軍管区のS-300V4高射ロケットシステム部隊が、クリル列島の島で、対空防衛に関する戦闘当直に就いた。
その前日、東部軍管区司令官・ロシア連邦英雄のゲンナジー・ジトコ大将は、戦闘当直に就くための準備態勢を自ら視察していた。同大将は、ロシア連邦の領空侵犯に関する信号を受信した際の対処に関する訓練を視察し、部隊及び当直班の整然たる仕事ぶりを高く評価した。
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ロシア語でいう「クリル諸島」というのは我が国でいうところの千島〜北方領土まで全てを含めた呼称ですから、これだけではS-300V4がどこに配備されたのかは明らかでないのですが、現状では「クリル諸島」の中で大規模な軍隊が駐屯しているのは北方領土の国後島と択捉島だけなので、配備先は北方領土であろうという推測が成り立ちます。
実際、この直後にリリースされたロシア国防省系テレビ局「ズヴェズダ」の映像はこれを裏付けるものでした。「ズヴェズダ」がリリースしたのは以下の二本です。
・「クリル諸島でS-300V4が戦闘当直に」(2020年12月1日午前3時配信)
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https://tvzvezda.ru/news/forces/content/2020121240-yzuBP.html>
・「全く新しい部隊:クリル諸島にS-300V4地対空ロケットコンプレクスが到着した」(2020年12月1日午前9時19分配信)
<
https://tvzvezda.ru/news/opk/content/2020121914-86WZS.html>
配備先は択捉島
二つ目の映像ではっきり言及されているように、S-300V4部隊の配備先は択捉島となったようです。ロシア軍は数年前から択捉島と国後島で防空システム用の陣地らしきものを建設しており、後者については今年の春ごろにトール-M2U短距離防空システムが「入居」(とは言わないのでしょうが)したことが衛星画像で確認されています。
一方、択捉島の陣地はずっと空のままだったようです。これは単冠湾から程近いブレヴェストニク飛行場の東側に建設されたものですが、ロシア陸軍の戦場防空システムの最外縁・最上層を形成する長距離地対空ミサイル・システムであるS-300V4をここに配備しておけば、飛行場だけでなく対岸の第18師団司令部や北側のヤースヌィ空港まで十分にカバーできます。
S-300は広域防空システムであり、限定的ながら弾道ミサイル対処能力も有していますから、従来から配備されていたトール-M2U及びSu-35S戦闘機と組み合わせることで防空能力はかなり向上したと言えるでしょう。
また、陣地が建設されているということは、S-300V4部隊はここを拠点に常時対空監視を行うことになります。従来、北方領土周辺におけるロシア軍の対空監視能力はかなりザルだったと思われるので、状況認識能力の向上という意味でも同システムの配備はロシア軍の能力をかなり変えるでしょう。
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