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【Vol.355】冷泉彰彦のプリンストン通信

冷泉彰彦のプリンストン通信
「竹中平蔵氏、批判されるべきは成長放棄路線」  竹中平蔵氏といえば、小泉内閣で経済財政政策担当大臣、IT担当大臣と か金融担当大臣をやり、2004年には参議院議員選挙に比例代表で立候補 してトップ当選するなど、政治の世界でも大きな存在感を発揮した時期があ りました。その後、2006年には政界引退を表明して、以降は大学教授と しての活動のかたわら財界活動もしています。  政界で活躍していた時代からは15年近くが経過して、やや過去の人だと 思っていたのですが、ここへ来て同氏への批判が激しくなっているようです。  その批判というのは、「構造改革をやって非正規雇用を増やした張本人」 であるにもかかわらず、人材派遣会社の役員をやっているとか、「BI(ベ ーシックインカム)7万円」という提言をしているが、そんな金額では生存 権の否定だといいうようなものが多いようです。(中略)  そこで問題なのは、「非正規雇用を増やした張本人」だから批判するとい う態度です。私は竹中氏の肩を持つわけではないということを、予めお断り しておきますが、それでもこの「張本人」呼ばわりというのは、抵抗感があ ります。  1つは、非正規雇用を増やしたのは90年代の景気低迷であって、少なく とも2000年代に原因があるわけではないということです。もう1つは、 仮に2000年代に(あるいは90年代にも)構造改革が進まずにあらゆる フルタイム雇用と新卒採用が100%温存されていたら、日本経済はもっと 早く破綻していた可能性があるからです。その場合ですが、もしかしたらデ フレではなく、ハイパーインフレと超円安になっていたかもしれません。そ うなれば資源を他国に依存する日本の場合は、国民の生活水準がもっと激し く崩壊していたかもしれないのです。  では、竹中改革が正しかったのかというと、それは全く違うと思います。  1つ目はとにかく全体の成長ということを、全く無視していたということ です。2000年代というのは、同じように竹中氏が支えていた森喜朗政権 が「IT(イット)革命」を指向していたように、経済成長のためにはコン ピュータ化が鍵ということは分かっていたはずでした。(中略)  そもそも、郵政民営化の最大の目的は「簡保と郵貯の資金を、公的な財投 などの保守的な投資ではなく、完全にリスクのある民間のマネーに転換す る」ことであり、そのカネを民間セクターの将来性のあるベンチャーに回し て成長路線に向かうためでした。この点に関しても、改革は失敗だったと言 えます。  2点目は、生産性の問題です。自動化、脱はんこ、ペーパーレス、対面会 議や対面営業の廃止というような、あるいは事務、会計、訴訟の英語化とい った改革は、この時点で進めるべきでした。ですが、昭和の暗黒を引きずっ た財界は動かない、となれば、ズルズルと生産性を失いつつあった日本企業 の「日本語と紙と対面コミュニケーションに縛られた生産性の地獄」である 本社事務部門を「切る」のではなく、コストダウンをするしかなかったわけ です。  確かに90年代から2000年代にかけては、円高に苦しんでいたことも あり、日本国内の事務部門は徹底的な経費削減をしなくてはならなかったの でした。ですが、コンピュータ化は進まない、まして標準化とか、効率的な 業務フローや職務分担、専門職化などは昭和世代にはできない、ということ で事務部門の実務を担っている部隊は、派遣や非正規としてコストダウンし なくてはならなかったわけです。  終身雇用が止められなかったということも大きく、結局は何もしない高齢 世代の高いコストは切れない中で、新卒を減らしたり現場の最も大事な事務 部門を外注したり、非正規化したり「ヘトヘト」にさせることになったので した。  ということで、改革とは名ばかりであったわけです。竹中氏は、そのこと を十分にわかる立場でありながら、結局できなかったのです。

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  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
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