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週刊 Life is Beautiful 2020年12月22日号

週刊 Life is beautiful
今週のざっくばらん バブルの正体 先週、上場した c3.ai の株価について「IPOバブル以外の何者でもない」と書きましたが、今週は少し「バブル」について書いてみたいと思います。 バブルとは、一般的には「不動産や株式をはじめとした時価資産価格が、投機によって経済成長以上のペースで高騰して実体経済から大幅にかけ離れ、それ以上は投機によっても支えきれなくなるまでの経済状態」を指します(Wikipedia:バブル景気)。 ここで重要なのは「投機」という言葉です。投機とは「価格変動の勢いに乗じて、短期的に利鞘(りざや)を稼ぐこと」で、企業の収益力などとは無関係に、価格変動のみを見て上昇機運にある株を早めに買い、上昇したところで売却する手法です。 「投機」と対局にあるのが「投資」で、こちらは企業の収益力や成長性を見た上で「適切な価格」を見極め、それよりも市場価格が安い時に購入して長期保有して配当や利鞘を稼ぐ、という手法です。Berkshire Hathaway を運営する Warren Buffett 氏の投資手法がその典型で、「Value Investment」と呼ばれます。 市場にいるのが投資家ばかりであれば、企業の株価は企業の業績を反映した「適切な価格」を推移し、4半期ごとに決算発表を見て、それに反応して株価が動くという、まっとうな動きをします。 しかし、実際の市場には、短期の利鞘稼ぎを狙う投機家もたくさん存在し、彼らが「良い決算が出るかもしれない」という予測のもとに決算前に株を買ったり、良い決算が出た瞬間に誰よりも早く株を購入し、株価が上がったところで素早く売り抜けるなどの行動をするため、株価は実際の企業の業績の変動以上に、大きく上下することになります。 バブルを「株価が企業の実際の価値以上に高騰する」と定義するのであれば、株式市場には投機家たちの活動により、頻繁に小さなバブルが生まれては消えている、とも言えるのです。 しかし、本当のバブルは、普段市場で投機をしていない人たちが市場に投機家として大量に参加した時に起こります。知り合いが投機で一儲けしたことを知って新たな人たちが投機家として市場に参加してさらに市場が加熱し、「購入者が多いから株価が上がる、株価が上がるから購入者が増える」というサイクルに入るのです。 日本の80年代後半のバブルもそうでした。それまで株などに興味を持たなかった人たちまで株を買い、不動産、ゴルフ会員券などが投機の対照となり、誰もが「乗り遅れてなるものか」と「適正価格」を無視して買い漁った結果、バブルが大きく膨らみました。 今のIPOバブルも同じです。Robinhood が株の取引を民主化し、これまで株式投資に見向きもしなかった大学生も含めた若い人たちが Robinhood を通じて株を買っているのです。彼らに共通するのは、Jim Craymer のような株式評論家のビデオをエンターテイメントとして楽しみ、電気自動車、AI、オンライン・ギャンブリングのような目新しい業種の派手なIPO株に、「適正価格」を無視して投資して来る点です。 ここ最近のIPO株は、すべて売り出し価格を当初の予定より5割ほど高く設定していますが、そこからさらに5割増し、10割増しの値段がついてしまうのです。 c3.ai の場合、当初の売り出し価格は、$36 から $38 とされていました。それが会社にとっても投資家にとっても「妥当な価格」だからです。しかし、どんな価格で売り出しても株価が上昇する今の状況を考えれば、「妥当な価格」で売り出すことは、会社にとって「お金をテーブルに残す(本来、自分のが手に入れることが出来たお金を、みすみす逃すこと)」に相当します。 そこで、c3.ai は売り出し価格を「妥当な価格」よりも少し高い $42 で売り出すことにしたのです。しかし、Bobinhooderたち(Robinhoodで取引を始めたばかりの投機家たち)にとっては、いくらで売り出そうとIPO株は投機のチャンスであり、そこで初日の株は一気に100ドルにまで跳ね上がってしまったのです。 下のグラフは c3.ai の上場初日からの株価の動きですが、2日目から3日目にかけて $133 にまで上昇し、その後、$100 近くにまで株価を下げています(追記:その後、$137 まで上がりました)。

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