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【Vol.358】冷泉彰彦のプリンストン通信

冷泉彰彦のプリンストン通信
「歳費カット、定員削減でも働かない議員は変わらない」  経済衰退に加えて、コロナ危機が続く中で、国会議員への風当たりが強く なっています。いわゆる都市系の小さな政府政党などを中心に、「議員の歳 費をカットせよ」とか「議員定数削減」などという話が出入りしています。  あんまりやると、間接民主制がおかしくなるので、世論を煽るのもいい加 減にしていただきたいと思うのですが、確かに「働かない議員」がいるのは 問題です。ですが、そもそも「どうして議員は働いているように見えないの か?」という点を考えると、実はこの問題には「決め手」があるのです。  どうして議員が頑張っているように見えないのでしょう? それは、例え ばAという法案があるとします。議員の仕事は、そのA法案について賛成す るか、反対するかを考えることです。憲法に規定された間接民主制を実現す るためには、とにかく個々の法案について、徹底して調査をして効果を考え ること、そして何よりも自分を選んでくれた選挙区の支持者の民意に従うこ とが大事です。  民意がどう考えるのか、それを前提にその選挙区の意見を多くの議員に理 解してもらって、自分の選挙区の意見が国政に反映するようにする、そのた めには地元との対話、A法案の関係する官庁や、関連する産業、そして反対 派など、さまざまな調整が必要です。その結果として、この議員は民意を実 現してくれる力があるし、結果を出したとなれば次の選挙でも当選できる・ ・・はずです。  ですが、日本の議会政治では、そのようなシステムにはなっていません。 2つの問題があるからです。  1つは、派閥のボスによる支配です。これは自民党から野党の全てにわた ってそうです。個々の法案に対して賛成反対をどうするか、そもそもどんな 法案を出すのか、どんな政策を実施するのか、と言った「判断」は当選回数 の多いボスたちがするので、当選回数の少ない議員の声は反映しないのです。 ということは、初めから仕事をするなと言っているわけです。  2つ目は党議拘束です。Aという法案について、賛成するか反対するかに ついては、日本の各政党の国会議員は「判断の自由がない」のです。なぜな ら、党議拘束というのがボスから降りてきて、それに従うしかないからです。 これに背くと処分されて最悪の場合は党から除名されます。従って、ここで も仕事をすることはできません。せいぜい、自分の選挙区ではこの案では困 るという場合に、派閥内の密室コミュニケーションをやるぐらいですが、そ れすら若手には可能性はありません。  多くの人が、当選ラインを票数で割って「一票の格差」があるとかないか 怒ってますが、これもナンセンスな話です。格差があるとしたら、自分の選 挙区の代表が「派閥内で偉いかどうか」の格差であって、結局は密室で何も かもが決まるわけですから、昔で言う「陣笠(じんがさ)議員」つまり若手 には権限はないわけです。  これを打破して、ボス政治と党議拘束を外せば、議員はその選挙区の民意 と政策の間に立って、時には奔走し、時には板挟みとなってとにかく必死に 仕事をしなくては、次の選挙では落ちるということになります。実は、これ こそが間接民主制であって、民意を政治に反映するというのはそういうこと です。日本のボス政治と党議拘束というのは、実は「なんちゃって民主制」 なのです。  そう申し上げると、だから自民党はダメだという声が野党から来るかもし れませんが、党議拘束、そしてボス政治というのは野党もやっているのです。 立憲だって、共産党だって、むしろ党議拘束のキツさというのは、自民党以 上でしょう。  とにかく、国会改革のキモはボス政治と党議拘束の廃止です。それをやら ないで、定数削減とか、歳費を下げろというのは、ラーメン屋に行ったらカ ップ麺を出されたのに怒りもしないで、「ちょっと塩気が足りないので塩を 貸してくれ」と言っているような話です。

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  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
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