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第112号(2021年1月4日)国防省拡大幹部評議会から見る2020年のロシア軍

小泉悠と読む軍事大国ロシアの世界戦略
存在感を増す「軍事大国ロシア」を軍事アナリスト小泉悠とともに読み解くメールマガジンをお届けします。 【目次】 ●レビュー ロシア軍事重要発表を読む-1 国防省拡大幹部評議会 ●今週のニュース サハリンに地対艦ミサイル旅団を配備? ほか ●NEW CLIPS 「戦場のメリークリスマス」、中露爆撃機の共同飛行 ほか ●NEW BOOKS 塩川伸明『国家の解体』ほか ●編集後記 淡々と2021年 =============================================== 【レビュー】ロシア軍事重要発表を読む-1 国防省拡大幹部評議会  あけましておめでとうございます。  なんだか大変な一年が終わり、今年も決して楽観はできないのですが、とにかく新しい年が始まるのは気分のいいものですね(このメルマガは性質上、ずっとキナ臭い話ばかりしていますが)。  というわけで今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。  願わくば平穏な一年でありますように。  さて、ロシアの役所は12月31日が仕事納めであり、それから1月の10日くらいまでの新年休みをとります。この間の1月7日には正教暦のクリスマスも挟まるので、ロシア人の頭の中では元旦からこのくらいの時期までが「新年(ノーヴィ・ゴード)」という一繋がりのイベントとして認識されているような気がします。  というわけで来週くらいまで、役所としてのロシア国防省は休眠状態なはずですから、年末に出てきたあれやこれやをざっとレビューしてしまいましょう。  今週取り上げたいのは、毎年12月に実施されている国防省拡大幹部評議会におけるショイグ国防相の報告です。ロシア軍の状態を定量的に把握するのに必須のイベントであり、これを聞き終えると一応「今年も納まったなぁ」と僕は思うのですが、今年は年末まで新著の原稿にかかずらっていたので年明けにようやく手をつけることができました。  なお、ショイグ国防相の報告全文はこちらのPDFファイル(http://mil.ru/files/files/itogi2020/VS.pdf)にまとめられていますが、ロシア国防省はその内容をビジュアルでわかりやすく解説したページ(http://itogi2020.mil.ru/)も用意しています。最近のロシア軍はこういうの非常に上手ですね。  では、その内容を見ていきましょう。 ●戦略核戦力について - 即応体制:戦略ロケット部隊(RVSN)ではミサイル発射装置の95%が常時即応体制に置かれている/長距離航空隊(DA)は2020年中に50回のパトロール飛行を実施した/原子力水中ロケット巡洋艦(SSBN)は世界の海洋で計画通りにパトロール航海を実施している - 装備近代化率:全体の86%が近代化されている/RVSNでは3個連隊が新型のヤルスICBMに装備更新/アヴァンガルド極超音速滑空飛翔体(HGV)を装備する最初の連隊の装備更新作業(https://note.com/cccp1917/n/n27fa0ea32d9a?magazine_key=m59addce99619)が継続中/DAはTu-95MS戦略爆撃機の近代化型5機を受領/海軍は955A型SSBNの1番艦クニャージ・ウラジーミルを受領 - ヤルスとアヴァンガルドのためにインフラ更新を実施/RVSNで950棟の建築物を建設 ●通常戦力について - 陸軍(SV):装備品3500点以上を受領(うち、戦車その他の装甲戦闘車両220両、自動車1500両以上)/自動車化歩兵師団・ロケット旅団・砲兵旅団を新編 - 航空宇宙軍(VKS):13個部隊(輸送機連隊及び高射ロケット連隊を含む)を新編/航空機147機・防空部隊用装備150点以上(S-400 4個コンプレクス、パンツィリ-S1 24両を含む)を調達/飛行場14カ所を改修/270棟の建築物を建設/中距離偵察・攻撃無人航空機イノホージェツとフォルポストの配備を開始/4機目のミサイル警戒衛星クーポルの打ち上げにより統一宇宙システムの軌道展開第二段階が完了/ソユーズ-2打ち上げロケット用発射施設の改修/新型のアンガラ-A5打ち上げロケットの発射試験に成功 - 海軍(VMF):潜水艦2隻・水上艦7隻・戦闘艇10隻・補助船舶10隻を受領/沿岸ロケット部隊の74%がバール及びバスチョンに装備更新/自動車化歩兵師団と沿岸ロケット旅団を編成/黒海艦隊司令部を再建し、指揮通信システムを刷新/マハチカラでカスピ小艦隊用新基地が運用開始 - 以上により、ロシア軍全体の装備近代化率は70.1%となり、プーチン大統領による2012年5月の中期目標を達成できた ●装備調達の手法と今後について - 価格評価方法の見直しにより、2018-2020年の国家装備プログラムでは不要な価格上昇を抑制し、3年間で5510億ルーブルを節約した。浮いた費用は部隊の装備近代化費用とした - 装備品の代金を前払いとしたことで遠洋ゾーン艦艇の建造に関する予算不足が解決し、航空機の納期を早めることができた。この方法は水上艦16隻の建造と19隻の近代化改修に用いられており、来年は同じ方法による契約が6件締結される - 現在の国家契約によって建造ないし近代化改修される遠洋ゾーン艦艇は41隻/固定翼機・ヘリコプターは2024年までに94機/うちSu-57戦闘機は22機であり、2028年までに計76機を調達する - 現在の計画では2024年までにロシア軍の装備近代化率は75.9%に達する - 今後、全ての主要な兵器に関して長期計画を締結することが見込まれている。国防生産コンプレクス(OPK)を構成する企業群はこれによって7年先を見据えた事業計画を立てることが可能になり、資材購入や効率的な経営ができるようになる - 来年(2021年)初めには長距離精密誘導ミサイルの追加購入契約を結ぶ。これにより、同ミサイルの保有数は2倍になる - ロシア軍は最も先進的で技術的に優れた軍隊となった/一方で国防支出は世界第8位から第9位となる見込み - 新型コロナウイルス危機により、OPKの専門家230万人が自己隔離を余儀なくされており、国家国防発注(GOZ)が未達成となる恐れもあったが、最高司令官(訳注:プーチン大統領)の介入によってこのような事態は避けられた/国防省に設置された財政状況モニタリング・システムもOPK各社のGOZ履行状況を監視するのに役立った (これ以降、コロナ対策に関する報告が続くが省略)

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  • ロシアは今、世界情勢の中で台風の目になりつつあります。 ウクライナやシリアへの軍事介入、米国大統領選への干渉、英国での化学兵器攻撃など、ロシアのことをニュースで目にしない日はないと言ってもよくなりました。 そのロシアが何を考えているのか、世界をどうしようとしているのかについて、軍事と安全保障を切り口に考えていくメルマガです。 読者からの質問コーナーに加えて毎週のロシア軍事情勢ニュースも配信します。
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