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週刊 Life is Beautiful 2021年1月26日号

週刊 Life is beautiful
今週のざっくばらん 2040年の未来:生体プログラミング 先週の質問に、成毛眞さんの「2040年の未来予測」という本に絡めて私にも「未来予測の書籍を出して欲しい」というリクエストがありました。未来を予測することはとても難しいですが、「自分がその分野の起業家であったら、どこを攻めるか」という観点であれば、考えることはとても良い頭の体操になります。 そこで、まずは私が医療関係のベンチャー企業を立ち上げる場面を考えて、思いつくままに書いてみます。 最初に思いつくものとしては、COVID-19 ワクチンで話題になった mRNA (メッセンジャーRNA)の医療への応用があります。少し前に書いたように、今や DNAプリンターを使って、設計図通りの mRNA を作ることが可能なので、あとはソフトウェア(=塩基配列)の勝負になります。 mRNA 上の塩基配列はタンパク質の設計図なので、特定の塩基配列を持った mRNA を体内に注入することにより、いかなるタンパク質でも体に作らせることが可能になったのです。 COVID-19 ワクチンのように、ウィルスや細菌のタンパク質の一部を mRNA を使って体に作らせることにより、免疫力を持たせるというワクチン的な使い方は当然考えられます。今後、COVID-19だけでなく、インフルエンザや他の伝染病に関しても、mRNA が応用されることは確実です。 しかし、それだけでなく、mRNA を使って免疫系を活性化させて癌を攻撃させる、アルツハイマーの原因になる老廃物を破壊する、体に有用な働きをするタンパク質を mRNA によって作らせる、など色々な応用が考えられます。 従来の薬剤投与の代わりに、mRNA を使って体に必要なものを作らせるという形の医療を目指すのも悪くないと思います。例えば、糖尿病の患者にインシュリンを投与する代わりに、インシュリンの生産を促すような mRNA を体に送り込むようなアプローチです。 マラソン選手は、赤血球を増やすために、高地でトレーニングをしたり、低酸素テントで眠ったりしますが、その代用として赤血球の生産を促す mRNA を設計するのも悪くないかも知れません。極端な話、ドーピング検査に引っかからずに筋肉を増強するような mRNA の設計すら十分に可能に思えます。 mRNA が成長期の子供たちに与える影響はまだ完全に理解されていませんが、ホルモンの直接投与よりも安全で負担の少ない形で、mRNA を使った「ホルモン治療」が可能になっても不思議はありません。 mRNA はタンパク質の設計図でですが、別の役割を果たすRNAのことをノンコーディングRNA(もしくは、ファンクショナルRNA)と呼びますが、これを使った医療にも色々な可能性があると私は見ています。 既にノンコーディングRNAを使って、出生後にダウン症の治療を行おうという基礎研究もされており、ここにも大きな伸び代があるように私には見えます。 役目は若干違うものの、mRNA もノンコーディングRNAも、生体に対する「プログラム=インストラクションセット」であることには代わりはなく、それらを活用して行う医療は、「生体プログラミング」そのものなのです。 その適用範囲は、人間だけにとどまらないため、農産・畜産・水産などにも応用範囲を広げるのも悪くないかも知れません。特定の mRNA を注射するだけで、普通の牛の肉が上等な霜降り肉になるのであれば、大きなビジネスになると思います。 mRNA とは異なるアプローチですが、遺伝子情報を活用した「パーソナライズ医療」も伸び代がとても大きい分野だと見ています。 現在、医療では様々な「薬」が使われていますが、それぞれの薬が良く効く人と効かない人がいることが知られています。副作用も同じで、最悪のケースでは、薬の副作用が命取りになるケースすらあります。 これまでの医療は、まったくの手探りで、医者が効くだろうと思う薬を処方し、しばらく服用しても効果がなかったり、激しい副作用が出たら別の薬に切り替える、などの方法が取られて来ました。 しかし、最近になって、薬の効き具合や副作用の出方が、患者の遺伝子情報と相関関係を持つ場合があることが分かって来ました。つまり、最新の遺伝子解析技術と機械学習の技術を組み合わせれば、患者の遺伝子を調べただけで「この患者にはこの薬が効く」「この薬は重い副作用が出るので避けた方が良い」などが分かるようになる可能性が十分にあるのです。 ここでビジネスをするには、十分なデータが必要なので医療機関との提携が必須ですが、社会的意義を考えれば、国や地方自治体から全面的な支援を受けても当然だし、ビジネスとしても十分に大きな可能性があると私は見ています。 医療関係で次に頭に浮かぶのは、iPS細胞です。幹細胞と同じく、体のどの部分にでもなることができるというのは、自分のDNAを持った臓器を、体の外で作れるという意味では画期的ですが、iPS細胞作成時に導入される「初期化因子」が、その後の細胞分裂時に悪さをして細胞を癌化してしまうという欠点があるそうです。

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