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【Vol.362】冷泉彰彦のプリンストン通信

冷泉彰彦のプリンストン通信
「問題は総理大臣の作り方にあるのでは?」  菅総理の人気が低下しています。まあ「仮定の質問には答えない」とか 「お答えは差し控えます」「見守って行きたい」では、どんどん燃料を投下 しているようなもので、炎上上等という覚悟というよりも、もっと投げやり な感じもあります。  問題は、ご本人は別に投げやりでもなく、「答えを差し控えて見守って」 行くのが正しいと思っているのですから、これは絶望的です。とにかく問題 は総理大臣というのが選ばれるだけでなく、その候補も含めて「どうやって 総理大臣を作って行くのか」ということまで考えないとダメだと思うのです。  今回は3つ問題提起をしたいと思います。  1つは、まずパブリックスピーチ力の底上げという問題です。現代の日本 語というのは、非常に特殊な言語になっていて、プライベートな空間、つま り自分と相手との間に「密」な共通理解があって、その暗黙の共通情報につ いては既知のものとして言語化しないわけです。  その上で、コンテキストに依存した、つまり「高コンテキスト」な状態を 維持しながら、非常に省略を利かせた会話をするわけです。そうすることに よって、初めて極めて高度なコミュニケーションが成立します。  政治家というのは、そのような「あうんの呼吸」による密室言語のプロで あるわけです。だからこそ総理総裁にまで上り詰めたわけですが、坂の上に は「雲」ではなく、上り詰めた坂の上に立った瞬間に、全国民の注目を浴び て、全国民に向けて語りかけないといけないわけです。  この落差というのは猛烈です。それこそ人形劇の人形使いが、一瞬のうち にヒナ壇に座らされて、アドリブでお笑いマシンガントークをさせられる、 そのぐらいの落差があるわけです。いや、落差はもっと大きいかもしれませ ん。  総理になる直前までは 「例の件は、その線で」 「いや、和歌山の御仁がうるさいのでその線は」 「いや、そっちは何とかする」 「結構です。ではそういうことで」  的なコミュニケーションをやっていて、それが上手なので総理になったわ けですが、総理になった途端に「さあ全国民に向けて喋ってください」と言 われても困るわけです。  ちなみに、官房長官の会見というのは、あれは台本のある話芸ですし、望 月ナントカ記者との掛け合い漫才もネタですから、本当のガチンコではなか ったわけで、総理に要求されるスキルというのは、全く次元が違うわけです。  これは政治家の問題だけではありません。日本の結婚式の式辞とか、社長 の訓示というのは、だいたい平凡で退屈と相場が決まっています。これも、 パブリックスピーチ力の文化がないので、台本に則って適当に喋っているか らです。恐ろしいのは教育者でもそうだということで、無理して管理職にな った校長教頭のために朝礼でのスピーチのネタ本なども出回っているぐらい です。とにかく、政治家だけでなく、社会全体におけるパブリックスピーチ 力の底上げをしなくてはなりません。

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  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
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