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【Vol.364】冷泉彰彦のプリンストン通信

冷泉彰彦のプリンストン通信
「うっかり法律違反という話題に振り回されるな」  日本のネット記事の多くは、ビューを稼ぐことが前提のビジネスモデルの なっています。基本的には正しいことだと思います。そして、情報における 需要と供給が自由にバランスして行くことは正しいことです。  ですが、それが100%正しいとも言えない、そんなケースがあります。 最近ネット記事の中で特に目に付くのが「うっかり法律に違反していません か?」的な「説教記事」です。  勿論、騒音を発生させて近所に迷惑をかけるとか、ペットの排泄物を処理 しないといった迷惑行為が、単に民事上のトラブルだけでなく、軽犯罪法と か迷惑条例などの違反になるというような情報は大いに結構と思います。  また、交通関係でも自転車の酒酔い運転はダメだとか、追い越し車線を走 り続けるのはダメだとか、知らないでは済まされない問題があるのは事実だ と思います。  ですが、ランプの球切れは違反とか、ダッシュボードの上にぬいぐるみな どを置くのは違反といった指摘は、確かにそうかも知れませんが、球切れと いうのはそもそも片方が点灯していないと、他の車両から見えないことで、 車幅を誤解されるとか危険な行為であるわけです。法律違反という前に、切 れていたら怖いという感覚がなければおかしい話です。  またダッシュボード上のモノが視界を遮る場合は、マトモなドライバーで あれば安全面から気にするはずですし、気にならない範囲のモノでも違法だ からというのは余計なお節介というものです。勿論、白バイなどにイチャモ ンをつけられて違反切符を切られるリスクがあるのかもしれませんが、視界 を遮るような大きさでないぬいぐるみを摘発するような話は余り聞いたこと はありません。ルールのためのルールを「ご存知ですか?」とか「ウッカリ 違法にならないように」というのは、やはり余計なお世話であると思います。  交通ルールに関して言えば、昨今増えているのが「歩車分離式信号の交差 点」というものです。これはテクニカルには「スクランブル式」と同じです。 全方向の車が一斉に赤になって、歩行者は全方向青になるというものです。 これによって、歩行者が歩いている場合には車は全方向停止しているので、 安全だという理由で導入されているのです。  警察庁によれば分離式にすると歩行者の事故は70%減るというのですか ら、とても良いと思います。問題は、厳密に言うと「保車分離」と「スクラ ンブル式」は違うというストーリーです。スクランブル式交差点というのは、 縦横だけでなく、斜め方向にも横断歩道が描いてあり、同時に歩道の縁石が 斜め方向にも切ってあります。ですから、斜め横断してもいいわけです。  ところが、最近の「保車分離」の場合は斜めの横断歩道はありません。ま た縁石も縦横方向にしか切ってありません。また、歩行者の「青信号の時 間」については、スクランブル式より短いものがあります。  この点を踏まえて、「保車分離」の場合は斜め横断は認められていないし、 それで事故に遭った場合は保険金等で不利になるということを口うるさく説 明した記事をよく見かけます。  実際に調べてみますと、多くの警察署が道交法の斜め横断禁止規定を絶対 視しており、スクランブルでは特別に認めているが、保車分離では認めてい ないので、禁止だとしています。そのくせ、どうしてスクランブルにしない のかというと、縁石の改造工事の予算がないとか、斜めに高齢者が渡ると時 間がかかるので、青信号を長くしなくてはならない、あるいは斜め方向の信 号を設置する予算がない、といった小さな理由しかないケースがほとん どのようです。  ということは、かなり理由の希薄な問題で、脱法行為を誘発しているとい う構造の全体に問題があるわけです。問題は単に「ご存知ですか?」といっ たブラック校則に盲目的に従えというようなアプローチではダメだというこ とです。

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  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
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