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【Vol.365】冷泉彰彦のプリンストン通信

冷泉彰彦のプリンストン通信
「五輪組織委問題、諸悪の根源はホンネとタテマエの使い分け」 (前略) 日本の、特に森喜朗的なコミュニケーション様式では、そのよ うに複数オプションを透明性を持って並べておいて、そこで判断するという ことができません。諸要素を考慮して判断するというスキルそのものが、ま ず欠けているということもあるでしょうし、利害関係が複雑であって、デフ ォルトの設定が既にマイナスということもあるでしょう。  ですが、彼が政治家として歩いてきた長い時間の中で、そのように複数の オプションを横に並べ、しかも重要なことは公開して透明性を確保しながら 判断するということは、できないし、しないという姿勢が骨の髄まで染みつ いているのだと思います。  そして、そのホンネの部分に恐ろしいまでの男女差別や、権威主義、秘密 主義が残っているのです。  では、この場合のホンネの部分をどうオープンにして、透明性を高めるの か、問題はジェンダーの平等性だけではありません。その奥にあるのは、東 京五輪をどうするのかという、大きく分けて3つの問題が横たわっていると 考えられます。  1つ目は、開催の条件です。これはそんなに簡単ではありません。開催国 としてどのような条件なら開催できるのか、ということを決めればいいとは 言えないからです。  まず、日本として、どのような条件なら相手国の選手ならびに観光客を受 け入れることが可能なのか、という問題があります。直前のPCRで陰性だ とか、ワクチン接種証明があるなどという形式要件で入れて、万が一それが インチキな紙切れであって、選手なり観光客が日本でクラスターを発生させ ては大会は失敗します。五輪としての厳格な基準が必要です。  また相手国として日本がどのような条件に達していたら選手並びに観光客 を送ってくるのかという問題があります。日本の感染数がどこまで抑えられ ているのか、またワクチン接種率はどうかということで、いくら日本が「安 全だ」とアピールしても、個々の参加国が「ノー」と言うようではダメだか らです。  その他の要素としては、各国予選の問題があります。競技別に状況は異な りますが、予選ができないようなら参加は無理であり、結果的に成立する競 技が少ないようでは大会は失敗します。  その上で、経済的な問題があります。多少の制約はともかく、ある点を超 えて「制約の多い大会」になってしまい、その結果として「中止した以上に 赤字が拡大」するようならやるのか、やらないのか、という問題があります。 これには主催国としての直接の開催費用だけでなく、民間の経済効果がどの 程度になるかということも関係するでしょう。  とにかくこうした複雑な要素について、森という人はこの切迫した局面に おいて、まともな情報公開をしてきませんでした。次期委員長の人事として は、こうした事情について、各国の意見を聞き、国内の調整を行い、最終的 にはアスリートたち、そして国内外の世論を納得させるような情報公開の姿 勢と、情報公開のできるだけの権限と説明能力を持った人物でなくてはなら ないと思います。  2つ目は、開催時と中止時の費用負担についてです。コロナ禍の中では、 開催するにしても、中止するにしても当初見込んでいた費用とは全く別のコ スト・ストラクチャーになる可能性があります。この点について、厳格な予 算管理を行い、状況に応じて臨機応変に資金を用意し、資金が用意できなけ れば予算をカットする、その上で、開催が不可能ならその判断をするし、そ の場合に、どうしても国や都として「持ち出し」が出るのであれば、IOC との間で透明性のある、そして日本の国益を損ねないような厳しいネゴをし て経済的ダメージを極小化することが必要です。(以下略)

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  • 冷泉彰彦のプリンストン通信
  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
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