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迫田朋子氏:家庭医の不在という日本の医療体制の根本的な弱点がコロナで露呈している[マル激!メールマガジン]

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マル激!メールマガジン 2021年3月3日号 (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ ) ────────────────────────────────────── マル激トーク・オン・ディマンド (第1038回) 家庭医の不在という日本の医療体制の根本的な弱点がコロナで露呈している ゲスト:迫田朋子氏(ジャーナリスト) ──────────────────────────────────────  これは無いものねだりなのだろうか。  もし日本に「家庭医」制度が確立されていれば、今回のコロナへの対応も全く違ったものになっていた可能性が大きい。発熱した人が保健所や発熱外来に電話がつながらずに何時間も待たされた挙げ句、医師でもない保健所職員の判断に従わなければならないような不合理な事態も避けられただろうし、もちろんそのせいで保健所がパンクしたり、PCR検査が一向に増えないなどという謎の現象が起きることもなかったのではないか。 一度コロナに感染した患者、とりわけ高齢者が、その後、一般病棟での受け入れ先が見つからずコロナ病床に入院したままになるようなことも、かなりのケースで避けられたかもしれない。  しかし、なぜ「家庭医」という制度が日本に存在しないのか。更に言うならば、その言葉がなぜ日本では使われない、いやそれが使ってはいけない言葉になっているかを知ることで、日本の医療の実相がかなり見えてくるのではないか。  今回新型コロナウイルスの流行が始まってから、メディアはやたら「かかりつけ医」という言葉を多用するようになった。しかし、医療に多少なりとも関係していたり、メディアのように多少なりともその分野の歴史的な経緯を知っている関係者たちは、決して「家庭医」という言葉は使わない。そしてそれには理由がある。  実は日本は1980年代、急速な高齢化社会を迎えるにあたり、本気で家庭医制度の導入を図ろうとしたことがあった。しかし、強い政治力を持つ日本医師会の抵抗に遭い、1987年にその試みが潰されたという経緯がある。それ以来、医療界では「家庭医」という言葉はトラウマであり禁句になっているという。  家庭医とは、一般的には家族が日常的にお世話になっているかかりつけのファミリードクターのことだが、制度としては実際にはそれ以上の意味を持つ。日本が80年代に導入しようとした家庭医制度も、イギリスのGP(General Practioner)制度を参考に、一般の市民がどんな病気にかかっても、まず最初に診断を受ける医師を予め登録し、仮にその先、大学病院や専門医に診てもらう必要がある場合でも、まずは家庭医の判断を仰ぎ、そこから紹介してもらうというような制度が指向されていた。  そもそもイギリスのGPは日本の総合診療医にあたる専門医の一種で、厳密な資格が設けられている。また、イギリスのGP制度はNHSと呼ばれる国民健康保険制度の下で、日本の国民皆保険のような保険による出来高払いではなく、GPには予め割り当てられた患者数分の基本的な診療報酬が、診察の有無にかかわらず税金から支払われ、患者は家庭医からは無料で基本的な医療サービスを受けられる包括的な保険医療制度となっている。  日本の国民皆保険制度は健康保険証を持って行けば、日本中のどの医者にも自由に診てもらうことができるフリーアクセスが最大のウリになっている。しかし、家庭医制度は元々、家庭医が患者の医療へのアクセスにおけるある種のゲートキーパー的な機能を果たすことがその目的でもあるため、何はともあれ必ず決まった家庭医に診てもらわなければならない。これが、どの医者に診てもらえるかを自由に選べる現在の日本のフリーアクセスとは相容れない面があることは紛れもない事実だ。 ただし、日本のフリーアクセスが、患者にとって本当の意味でどれほどの価値があるのか、またそれが実際に医療の質を保証してくれているのかなどについては、十二分に検証すべき論点と言えるだろう。  今週は過去30余年にわたり医療問題を追いかけてきたジャーナリストでビデオニュース・ドットコムの迫田朋子氏とともに、家庭医とはどのような制度で、患者にとってどのようなメリットがあり、なぜ医師会がこれに執拗に抵抗するのかなどについて、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 今週の論点 ・「家庭医」はなぜ日本医師会のタブーなのか ・日本の医療と対極にある、イギリスのGPという制度 ・家庭医の導入をかわす、「フリーアクセス」という盾 ・日本ではなぜ、ジェネラリストが軽視されるのか +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ ■「家庭医」はなぜ日本医師会のタブーなのか 神保: これまで新型コロナウイルスの問題をいろいろと扱ってきましたが、僕としては今回が決定版というか、非常に大事な回だと思っています。ゲストも少し異例といいますか、だいたい月1で「マル激」の司会もお願いしている、ジャーナリストの迫田朋子さんです。 迫田: よろしくお願いします。ご期待に応えられるかどうか。 神保: 何を言いますか。僕は迫田さんとはもう25年くらいの付き合いですが、NHKにいるころからずっと医療・福祉の問題を扱ってこられていて、僕が知る限り本当に一番詳しいんです。僕らは米村滋人先生(東京大学大学院法学政治学研究科教授・内科医)もお招きして、日本がこれだけ少ない感染者数で世界一の病床数があるはずなのになぜ医療が逼迫しているのか、ということも取り上げてきましたが、確かにそうした問題はありつつ、本当はもっと根深い問題があるということを、迫田さんから教わりました。 僕だけが聞いたらもったいないので、ぜひその話をしてくださいと。

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