2021年 第 9号
【長尾和宏の「痛くない死に方」】
人は人生を愛しているときには読書はしない。
それに、映画館にだってほとんど行かない。
なんとと言われようとも、芸術の世界への入り口は多かれ少なかれ、
人生に少しばかりうんざりしている人たちのために用意されているのである
これは、ミシェル・ウエルベックというフランス人作家の言葉です。
15年ほど前に、『素粒子』という小説が日本でも翻訳されて、話題になった人で、はから
ずも僕と同じ、1958年生まれ。男と女がくっついたり離れたりという観念的な恋愛を
描いたものが多い(ように感じる)フランス小説などめったに読まない僕が、『素粒子』
は当時、なぜか興味深くページをめくった記憶があります。
大変難解な小説家で、僕はこの人の作品を、100%理解しているとは言い難い。しかし
この人の小説のテーマは、安楽死だったり、孤独死だったり、愛というものについて懐疑
的だったりしていて、なんだかどこか、自分と似ていると感じる。
この人が、
人は人生を愛しているときには読書はしない。
それに、映画館にだってほとんど行かない。
と書いていることに、僕は深く首肯する。そして、ああ俺は人生を愛していないから、
本も映画も学生の頃から大好きだったんや、とひとり納得をしている。
だからこそ『痛くない死に方』と『けったいな町医者』に、コロナ禍のなか、足を運んで
観に来てくださったすべての人を心で抱きしめたいと思う。ひょっとしたら僕と同じよう
に人生を愛せない人がいるのかもしれないと。
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