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週刊 Life is Beautiful 2021年3月16日号

週刊 Life is beautiful
今週のざっくばらん 半導体不足について 現在、自動車業界では半導体不足が大きな問題になっています。必要な半導体が入手出来ないために、各社が減産を強いられた結果、6兆円以上の売り上げが失われてしまったと試算されています(半導体不足のスパイラル、自動車業界以外に拡大か-一段と深刻化)。 この件に関しては、トランプ政権時代の中国に対する制裁が原因だとか、半導体の製造で大きなシェアを持つTSMC(台湾セミコン)が悪い、新型コロナによる一過性のものだ、などのさまざまな説がありますが、問題の本質は自動車業界と半導体業界をまたいだビジネス構造そのものにあり、かなり危機的な状況にあるように私には見えます。 今回の事件の背景には、Marc Andreessen が2011年に書いた「Why Software Is Eating the World」に書かれた世界が現実になりつつあるという事実があります。Marc Andreessen は、このメモで、ソフトウェアはあらゆる業界に大きな構造的変化をもたらし、ソフトウェアを上手に活用できない会社(今はやりの言葉で言えば、デジタル・トランスフォーメーション[DX]が起こせない会社)は、どんな業界であっても生き残ることができないことを指摘しました。 その波は、自動車業界にも押し寄せており、その先端を走っているのが Tesla であることは何度もこのメルマガでも指摘してきました。 しかし、Tesla が象徴するような、電気自動車・人工知能・自動運転などの最先端の話が始まる以前の話として、自動車業界には既に何年も前からデジタル・トランスフォーメーションの波が押し寄せていました。さまざまな電子制御装置の導入です。 典型的な例が、EFI・EGIなどと呼ばれる電子燃料噴射装置です。昔の自動車は、運転手がアクセルを踏むと、その力がワイヤや油圧を通じてキャリブレータと呼ばれる燃料噴射装置に伝わり、それが燃料と空気を混ぜる弁の角度を変えることにより、エンジンの出力を変化させるというとても単純な(アナログな)仕組みでした。 しかし、それだと気温・湿度・気圧などのさまざまな環境に対応出来ないという欠点がありました。昔の自動車が、寒い日にはしばらく暖機運転をしてからでなければ、まともに走らなかったのはそれが理由です。 導入されたのが電子燃料噴射装置です。電子燃料噴射装置は、アクセルの角度を一度デジタルな数字に置き換えた上で、各所に設置されたセンサーからの数字に基づいて最適な燃料の混合比を決めて燃料を噴射することにより、どんな環境でもエンジンが高い性能を発揮出来るように調節します。 デジタル化の波は、燃料噴射装置、パワーステアリング、クルーズコントロールなどのアナログ装置を置き換えるだけでなく、アダプティブ・クルーズコントロール(前を走る自動車との距離に応じて自動的にスピードをコントロールする仕組み)、自動ブレーキ、電子キーなど、アナログ技術では不可能だった機能の導入すら可能にし、次第に自動車にとってなくてはならないものになって来ました。 さらに、カーナビ、ドライブレコーダ、後方確認カメラなどを搭載した「車載機」が、最初は高級車に、そして次第に普及車にも標準で装備されるようになりました。後方確認カメラが米国で義務化されたことも、「車載機」の標準装備を推し進めました。 この手の電子装置には、マイコンと呼ばれる半導体が必須です。マイコンとはマイクロコントローラ、もしくは、マイクロコンピュータの略で、昔はパソコン用のCPUのことを指していましたが、今では組み込み機器向けのCPUもしくは(CPUを含めた)SoC(System On Chip)のことを指します。 Intel や AMD が提供しているパソコン向けのCPUとの本質的な違いはありませんが、必要とされる計算能力が低いために、集積度も低く安価で、カーナビ用の車載機を除けば、OSすら搭載されていないシンプルなものが大半です。 今回、自動車産業全体を停滞させるまでの影響を与えたのは、このマイコン不足なのです。 現在起こっているマイコン不足の直的的な原因は、新型コロナの影響による自動車の減産と、それに伴う、マイコン需要の低下です。去年の2月ごろに新型コロナの経済に与える影響が明らかになると、各自動車会社は需要予測を大幅に下方修正し、減産に踏み切りました。 当然ですが、自動車向けのマイコンを製造している半導体メーカー(ルネサス、NXP、Infineon など)にもその情報は伝わり、各半導体メーカーは、それに応じてマイコンの生産を抑えるようになりました。 トヨタ自動車の「カンバン方式」で知られる通り、自動車メーカーは、部品の在庫を極力抑え、部品は必要になった時にベンダーに納入させるという方法を採用しているため、自動車の減産が決まったら、ベンダーは素早く部品の減産をする必要があるのです(さもなければ大量の在庫を抱える羽目になります)。 今回の半導体不足は、ワクチンの摂取も始まり、需要が回復し始めたことを受けて、自動車会社が増産を始めようとした時に、その需要の急上昇に半導体メーカーが十分に答えられない状況に陥ったために起こったのです。

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