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【Vol.370】冷泉彰彦のプリンストン通信

冷泉彰彦のプリンストン通信
「中国の経済社会は、ソフトランディング可能なのか?」 (前略)  問題は中長期です。  その先の中国がどう振る舞って行くのか、特に2025年以降、2050 年までといった時間軸を考えた場合に3つのシナリオを想定しておく必要が あると思います。  1つ目は、このまま経済、技術、軍事の各方面で中国が成長を続け、堂々 たる先進国となり、人民元が基軸通貨になり、小米や華為などのOSを搭載 したスマホ(またはその代替のウェアラブルとか人体埋め込みとか)が世界 を席巻し、中国式の社会統制で環境や感染症のコントロールを世界規模で実 施するところまで、中国が成長するというシナリオです。  私はその可能性はほとんどゼロであると考えています。政治も、企業も、 そして軍隊もそうですが、規模が大きくなると強い理念で統御していないと、 大規模化した権力はかならず腐敗します。公私混同が起こり、それが見逃さ れると現場の士気は下がり、やがて組織には「ほころび」が生まれて、全体 がゆっくり崩壊に向かうということがまず起きるでしょう。  また、政治を上位にして、経済の方はある点を越えた(例えばアリババ) 規模となって、政治にとって脅威となるようだと処分されるとなれば、当然、 そのような規模に接近した企業は、政府との癒着を図るか、あるいは国外に 脱出を図ることになります。安定的に成長を続けることはできないでしょう。  何よりも、世界を支配するまでの巨大な経済、先進的な技術、効果的な軍 事力を実現するには、様々な「問題解決」を積み重ねて行く必要があります。 そこで、中国のような「大きすぎる組織、弱すぎる理念、本音むき出しの政 治闘争」という風土をそのままに進むと、結局のところは「個別の問題解決 にあたって最適解が出ない」ということが繰り返されます。  コロナの初動で隠蔽が行われたというのは良い例で、隠蔽した勢力が悪い のではありません。そうではなくて、一番上は「最善手」を望んでいても、 よほど気をつけていないと、2番目以下は「耳の痛い情報をスムーズに通 す」ことができないために、結局組織全体は遠回りをする、その繰り返しに なります。そうしたシステムでは世界支配などできるわけがありません。  もう少し別の角度から考えると、例えば中国発のGAFAが世界を仕切っ て行くには、相当に高度な知的能力のある企画レベルのエンジニア、そして プログラムの書けるエグゼクティブレベルの集団などが活性化していないと 不可能です。ですが、その集団が、結局のところ為政者の批判は許されない とか、それもトップ自身は良くても、ナンバーツー以下は無能で、しかも無 能なくせに絶対服従を要求してくるような環境では、思い切り能力を発揮で きる環境にはならないと思われます。  そもそも、モノではなく、ソフトと信用が重要になってくる21世紀にお いては、結局、世界的に通用するビジネスは英語になるわけで、中国も勝っ て行くためには、事実上公用語は英語にシフトする必要があります。ですが、 そうなると、やはり自由とか民主主義のカルチャーも流入してしまうわけで、 寡頭政治の維持は難しくなるでしょう。

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  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
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