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牧原出氏:何が日本のエリート官僚をここまで劣化させたのか[マル激!メールマガジン 2021年3月24日号]

マル激!メールマガジン
マル激!メールマガジン 2021年3月24日号 (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ ) ────────────────────────────────────── マル激トーク・オン・ディマンド (第1041回) 何が日本のエリート官僚をここまで劣化させたのか ゲスト:牧原出氏(東京大学先端科学技術研究センター教授) ──────────────────────────────────────  かつて日本は、政治は二流でも中央官僚が飛び抜けて優秀だから持っていると言われた時代が長らくあった。実際、霞ヶ関の高級官僚の枢要なポストは大半を東大法学部卒のスーパーエリート官僚が占めてきたし、それは今も大きくは変わっていない。  しかし、昨今の国会などを見るにつけ、その超エリート官僚たちが、耳を塞ぎたくなるような恥ずべき答弁を真顔で繰り返している。その厚顔無恥ぶりからは、焼け野原から世界有数の経済大国に至る戦後の日本を率いてきたエリート官僚の矜持や面影といったものは微塵も感じられない。  それが強く印象付けられたのは、安倍政権下で表面化した「モリ・カケ・サクラ」(森友・加計学園、桜を見る会)問題をめぐり、各省の高級官僚たちが政権を守るために公文書の破棄や隠蔽、虚偽答弁などを平然と繰り返す様を見せつけられた時だった。 菅政権下で広がり続ける総務省の接待スキャンダルでは、官僚たちは当然のように「記憶にございません」などという答弁をと繰り返すまでになっている。これを劣化と呼ばずして何と呼ぼうか。  日本は古くはロッキード事件、そしてリクルート事件や佐川急便事件などの数々の「政治とカネ」をめぐる疑獄事件を経て、1993年以降約四半世紀をかけて、いわゆる「政治改革」と呼ばれる制度改革を行ってきた。その一連の「改革」により利権政治を終わらせ、党と首相に権限を集中させることで、より政策中心の政治が実現し、意思決定のスピードも早まるといった考えが強調されてきた。 そして2014年の内閣人事局の設置によって、首相が中央官僚の幹部クラスの人事権を掌握したことに加え、内閣府機能が大幅に強化されたことで、首相への権力の一極集中はほぼ現在の形となった。  行政学が専門の牧原出・東京大学先端科学技術研究センター教授は現行の日本の政と官の関係を定義付けている政治・行政制度をめぐる諸改革は、橋本龍太郎首相や小泉純一郎首相が在任時に、「彼らのような強いリーダーがいることを前提」に策定されたものが多いことを指摘する。 強い政治のリーダーシップがあれば、官邸への一極集中は迅速な意思決定などの利点が前面に出てきやすい。しかし、首相にリーダーの資質が欠けた場合は、権力集中がかえって徒となり、悲惨な結果を生みかねない。  幹部官僚の人事を掌握したことで、首相は自分のお眼鏡に適う官僚を各省から内閣府や官邸に引っ張ってきて、自分の意に沿う形で手足として使うことで、自らが掲げる理念や政策を実現しやすくはなった。 しかし、資質に欠けた首相が推進する軽佻浮薄な理念や政策では、超エリートが居並ぶ各省庁の次官以下の中枢は言うことを聞かない。 その結果、首相は、役所の中枢から外れた、必ずしも能力が高くはないが政権の命令には忠実に従うようなヒラメタイプの官僚を官邸内のポストや内閣府に登用する場合が多くなる。 そうして一本釣りされ、脇道から表舞台に引き上げてもらった官僚は、一度は外れた出世街道に復帰することが可能になるとあれば、如何に官邸からの指示が理不尽で馬鹿げたものであっても、それを愚直に遂行することになる。  つまり、昨今、われわれが目撃している霞ヶ関官僚の劣化というのは、必ずしも霞ヶ関そのものが劣化したことの反映ではなく、時々の政権がそのような官僚に権限を与え、そのような行動を取らせている結果だというのだ。そしてその最大の責任は政治、とりわけ官邸への一極集中によって絶大な権力を手中に収めている首相にあるというのが、牧原氏の見立てなのだ。  今週は行政学が専門の牧原氏と、昨今の官僚の劣化の背後にある政治と行政の機能不全の実態とその原因、そしてわれわれはその現状をどう受け止めるべきか、その問題の解決のためにわれわれには何ができるのかなどを、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 今週の論点 ・官邸への権力集中で高まる“自壊のリスク” ・橋本龍太郎、小泉純一郎らがトップである前提の改革 ・傍流の官僚が官邸に引き立てられる ・自民党はこのまま崩壊するか、そのポイントは +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ ■官邸への権力集中で高まる“自壊のリスク” 神保: 今回は政と官の関係がただならぬ状況になっているのではないか、ということで、その道の専門の方と議論しようと思います。ただアホだバカだと言って問題にしても、なぜそうなっているのかを見ないと直しようがない。そこで、今回は行政学がご専門で、「どこがなぜ壊れているのか」について発言されてきた東京大学先端科学技術研究センター教授の牧原出さんをゲストにお招きしました。  牧原さんには昨年5月、モリカケの話をまとめて、官僚が壊れているという話をしていただきましたが、まだあれから一年しか経っていません。モリカケが終わったかと思ったら、コロナ対策についても、誰が出てきてももう変わらないような状況で、特に菅政権になってからは総務省接待スキャンダルともいうべきものが出てきている。専門家の目からは、総論的にどうご覧になっていますか。 牧原: 安倍政権においては、官邸官僚のなかに仕切る人が何人かいて、そこでグリップすることでギリギリ壊れる寸前で止めていたようなところがありましたが、いまはそういう方たちがほとんどおらず、いったんボロが出ると本当に壊れたままになってしまう、という状況です。誰もそれを修復しようとしない。 ですから、総務省の問題も非常に根が深く、大臣が国会で何を言っているのか自分でもわからないようなことになっている。総理大臣や大臣の知力や洞察力が下がったままでは、官僚も共に下がっていく、という状態になっています。 神保: 宮台さんはどう見ていますか。

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