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【Vol.377】冷泉彰彦のプリンストン通信

冷泉彰彦のプリンストン通信
「五輪キャンセル料負担という怪談を批判する」  まず現時点では、ある俗説が大声で叫ばれています。それは、日本サイド が開催中止を言い出したら巨額な補償金を取られるとか、その場合に、未来 永劫、五輪の開催は二度とできないだろう、などという言説です。  巨額な補償金という説ですが、まことしやかに、「五輪の収入の過半 は、米国のNBCの放映権料から来る。だから、五輪中止の場合は放映権料 の補償をしなくてはならず、日本が言い出した場合には、その分が日本に請 求される」ということが言われています。その金額は1200億円だなどと 言う報道もあります。怪談とするには十分な金額です。  では、NBCの側はどうなっているのかというと、まず2020年の3月 に7月の五輪が1年延期という決定がされたわけですが、この時点では既に 2020年夏の五輪放映に伴うCMの販売はほとんどが成約していたようで す。NBCは強気でキャンセル不可というような販売条件があったらしく、 スポンサーは一斉に反発して再交渉の結果、2020年のCMはキャンセル となりCM契約は2021年の五輪に延長されています。  ちなみに、NBC(コムキャスト・グループ)は自社ブランドと、ディス カバリーとのJV(ジョイントベンチャー)での2種類のチャネルで、スト リーミング中継も実施する契約をIOCと交わしています。ですから、NB C地上波、NBCストリーミング、ディスカバリー/NBCのJVでのスト リーミングという3つのチャネルでの放映権をNBCは買っているわけであ り、その3チャネルでの広告収入で利益を稼ぐビジネスモデルとなっていま す。  NBCとIOCの契約に関して、その詳細は公開されていません。ですが、 NBC(NBCユニバーサル)は、コムキャストというナスダック上場企業 の傘下にありますから、厳格なコンプライアンス(日本式の形式だけではな く、最悪の事態を想定して訴訟に耐え得る体制)を維持しているはずです。  ということは、2020年の時点でスポンサーとの契約再交渉を行った際 に、2つの点、つまり1点目としては、2021年に契約を移動する際の条 件としては、NBCとスポンサーが合意できるような合理的なものであった こと、そして2点目として、仮に2021年の開催も中止となった場合に、 NBCもスポンサーも合意できるような措置が取られていたことは、間違い ないでしょう。  つまり、2021年に五輪が開催されれば、NBCには広告収入が入る、 そして中止されれば入らないが、その場合はNBCは巨額な赤字を背負うわ けでは「ない」という条件になっているはずです。これは2011年の当初 の契約でそうなっているのか、2020年に再交渉したのかは分かりません が、いずれにしてもNBCとIOCの間では、中止の場合はNBCが損をし ない契約になっているはずです。独占放映権を夏季五輪1回分延長するとい った条項になっている可能性もありますが、恐らくは一回分、つまり1.2 ビリオン、要するに1300億円程度が返金されるということだと思われま す。  その場合は、IOCとしては大損になります。ですが、仮にNBCへの補 償が1300億だとして、これはビジネスで言えば売り上げがキャンセルさ れただけです。仮に中止の責任を日本に押し付けたとして、その金額を丸々 であるならば、これは正に「ぼったくり男爵」ということになります。宴会 のキャンセルが出て、売り上げ100万円がパーになったとして、そのレス トランが食材の納入業者に100万払えと言っているようなものだからです。  それはそうなのですが、IOCというのは、「国際オリンピック運動」と いう大義名分の下で、インフラ整備からドーピング防止の研究まで色々な活 動をしています。幹部の報酬について、例えば会長の給料は年額22万5千 ユーロ(約2500万円)という報道がありますが、その下に役員だけでな く多くの常勤職員を抱えていますから、年額の固定費は大きいわけです。そ のコストをまかなう一番の収入が消えるとなれば、辛いのは間違いないでし ょう。ですから「可能な限りはぼったくり男爵」をやらないと、組織が潰れ てしまうということはあると考えられます。  日本側としては、これは認められる話ではありません。(以下略)

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  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
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