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【Vol.377a】冷泉彰彦のプリンストン通信

冷泉彰彦のプリンストン通信
「五輪の食事会場に『監視員配置して会話禁止』、どう考えても不可能」  五輪担当の丸川珠代大臣は13日の国会(参議院の内閣委員会)で、東京 五輪・パラリンピックの新型コロナウイルス対策として、「選手や大会関係 者に求められる行動管理や感染予防策の実効性を高める」ために、「監視 員」を設置することを表明したそうです。  通信社等の報道によれば、丸川大臣は「息苦しい思いをすることになるか もしれないが、お互いのコンディションを守ることにつながる」というコメ ントもしています。尚、同じ報道によれば、選手村や報道関係者の食事会場 ではテーブル上にアクリル板を設置し、会話を控えてもらうなどの対策を徹 底する方針だそうです。その上で「こうした場所に監視員を配置する」計画 だと報じられています。  このアイディアですが、かなり難しいと思います。4つ指摘したいと思い ます。  1点目は、欧米だけでなく、アジアやアフリカも含めたグローバルな社会 では、食事と会話を切り離すことはできないということです。家族やカップ ルだけでなく、友人や知人同士での食事もそうですし、特にスポーツ選手が チームメイトや、コーチ、スタッフなどと食事をする、あるいは対戦相手と 食事をするような場合にも、会話を楽しみ、お互いを知る社交の機会として 食事というのは位置づけられています。  例えば、「個食」であるとか、「食事中は私語禁止」といった文化は皆無 ですし、そもそも五輪への参加という中で、選手村での交友を広げることは、 多くのオリンピアンに取って極めて重要な目的になっています。とにかく、 食事中の会話禁止といった「感染対策」については、事前に詳しく説明して 徹底的に納得させるにしても、そもそも納得させるということが困難を極め ると思います。  一部の地域では、食事の場面というのは食事を共にする人同士のプライバ シーだという考え方もあります。宗教的な理由から、食事の様子を撮影され たり、他人に覗かれることへの強い抵抗感を持つ場合もあり、そもそも「監 視員」などという発想は成立しないかもしれません。  2点目ですが、アジアはともかく、アメリカやEUでは、コロナ感染拡大 を阻止するために、飲食店における「会話禁止」「マスク会食」「アクリル 板」といった対策が取られたことはないと思います。少なくともアメリカで はほぼ皆無です。  勿論、飲食店の屋内営業を禁止したことはありましたし、州により詳細は 異なりますが、屋内営業を許可した場合に、定員の50%とか25%といっ た規制がされた時期はありました。また、アクリル板については、スーパー マーケットのレジに設置されたことはありました。  ですが、飲食店における「会話禁止」などというのは、そもそも「それで は飲食店に行く意味がない」ことになります。更に「食べる時はずらして、 会話の時は戻す」というマスク会食などという習慣は、全くありません。保 健行政や専門家が推奨したこともありません。  アクリル板に至っては、仲間同士が会食する場合に、その仲間同士を隔て るアクリル板などというのは、少なくともアメリカ人は許容しないと思いま す。と言いますか、そもそも見たことはないわけで「刑務所の接見か?」と いうような不満が出てくる可能性は十分にあります。(以下略)

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  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
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