存在感を増す「軍事大国ロシア」を軍事アナリスト小泉悠とともに読み解くメールマガジンをお届けします。
【目次】
●レビュー 新テクノロジーと(あくまでも戦争である)新時代の戦争
●今週のニュース 太平洋艦隊の近代化、武器輸出動向 ほか
●NEW CLIPS 北極のロシア軍基地を外国記者団に公開
●NEW BOOKS Ofer Fridman, Strategiya: The Foundations of the Russian Art of Strategy
●編集後記 足の裏の米粒
===============================================
【レビュー】新テクノロジーと(あくまでも戦争である)新時代の戦争
ドイツのヘルムート・シュミット大学の研究プロジェクト、Defense AI Observatory (DAIO)から興味深いレポートが出ました。
『誇大広告にご注意(Beware the Hype)』と題されたもので(
https://www.researchgate.net/publication/351614718_Beware_the_Hype_What_Military_Conflicts_in_Ukraine_Syria_Libya_and_Nagorno-Karabakh_Don%27t_Tell_Us_About_the_Future_of_War)、ウクライナ、シリア、リビア、ナゴルノ・カラバフの4つの紛争において、新興技術が実際にどのような役割を果たしたか(果たさなかったか)が詳細に分析されています。
いずれもロシアが関与したものであり、先般上梓した拙著『現代ロシアの軍事戦略』とも重なる部分が多いので、今回はこのレポートをレビューしてみましょう。
このレポートは、技術決定論(誇大広告)に警鐘を鳴らすものと言えるでしょう。特に重点が置かれているのは無人航空機(UAV)が実際に戦場で果たした役割ですが、これを含めて新興テクノロジーはまだ戦争のゲーム・チェンジャーにはなっていないとしています。
本レポートの分析枠組み(第3章)は次のようなものです。戦争の変容をもたらす要素には、概念的/文化的、組織的、技術的なものに三分類することができ、より大まかにいうとソフトウェアの領域とハードウェアの領域に分けることできる。このうちの技術=ハードウェアの領域だけに注目すると過大評価が生じて分析を誤らせるだろう、とレポートは述べます。というのも、戦争の変容というのは固定的な結果ではなくプロセスなのであり、そこではある要因(たとえば新興技術)を別の要因が倍加したり無効化することが起こるからだ、という訳です。
このようなプロセス的思考は、ハードウェアとソフトウェア双方の領域に、しかも横断的に及びます。前者においては、新興技術を、そのユーザーである軍隊がどのように受容するのかが鍵であるとされています。つまり、UAVのような新兵器が登場したとして、それを使いこなすだけの運用コンセプトがなければ有人機を無人機で置き換えただけで終わってしまう(=新しい戦争遂行方法にならない)。
また、現代の戦争がますます複雑化していることを考えれば、新興技術の一要素だけを取ってきても無駄であって、それをシステムの一部にどう位置付けるか(たとえば指揮通信統制システムの一部にどう組み込むか)はその国の軍隊の能力や力量に大きく左右されるでしょう。
一方、ソフトウェアの領域においては、そもそも政治指導部が次なる戦争をどのようなものとして構想し、それをいかに戦うか明確なビジョンを持っているかどうかが鍵になります。
しかも、新興技術をどう受容するかは各国の軍隊によって異なり、同じ国の軍隊でも軍種によりまた違いが出ます。さらに新興技術を受容することは失敗のリスクとも隣り合わせであり、場合によっては他国の成功を待ってから受容した方が有利な場合も出てくる。この辺の感度とリスクテイキングへの許容度も、国によって大きく変わってくるというのが本レポートの基本的な認識です。
この記事は約
NaN 分で読めます(
NaN 文字 / 画像
NaN
枚)