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三木由希子氏:原理原則なき「デジタル改革関連法」では個人情報は護れない[マル激!メールマガジン]

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マル激!メールマガジン 2021年5月26日号 (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ ) ────────────────────────────────────── マル激トーク・オン・ディマンド (第1050回) 原理原則なき「デジタル改革関連法」では個人情報は護れない ゲスト:三木由希子氏(NPO法人情報公開クリアリングハウス理事長) ──────────────────────────────────────  デジタル庁の創設などが盛り込まれた「デジタル改革関連法」が5月12日、成立した。これは63本のデジタル関連の法律を一括りにしたもので、その中には個人情報保護法の抜本的改正など国民生活に密接に関係する法制度の変更も含まれるが、そのわりには法案の中身に対する世間の関心は必ずしも高いものとは言えなかった。冒頭で指摘したような今後の日本社会の方向性を決定づける可能性がある重要な法律であるにもかかわらずだ。  今回の法案の立法趣旨について政府は、一連のコロナ対応で日本のデジタル化の遅れが顕著になったことなどを挙げているが、今回の法改正を一言で表現すれば、個人情報保護法の規制緩和以外の何物でもない。これまで自治体ごとに定められていた個人情報保護条例を、自治体よりも規律が緩い国の法律に一本化することによって個人情報保護の縛りを緩め、デジタルデータの行政や民間の利用を拡げようというものだ。  今回の法改正で特に大きな問題となるのが、これまで日本が維持してきた個人情報保護を巡るいくつかの基本原則が撤廃されてしまったことだ。これまで日本では個人情報は目的を明示した上で本人から許可を得て直接収集しなければならないという原則が貫かれ、それが各地方公共団体の個人情報保護条例でも尊重されてきた。しかし、今回の法改正ではこの「本人同意」の原則が撤廃され、個人情報を本人の同意を得ずに第三者から収集することが可能になる。 これによって行政や民間によるデジタル情報の利用はより容易になるが、自分のプライバシーが知らない間に侵害されるリスクが増すほか、自己情報を閲覧したりコントロールする権利が大幅に制限されることになる。  また今回の法改正により、これまで自治体の条例では原則禁止されていた個人の思想信条や出自、病歴などに関する「センシティブ情報」や「要配慮個人情報」の収集も可能になる。その他、「データ活用促進」の名の下に、自治体は保有する個人情報を匿名加工した上で、他の行政機関や民間に利活用させるための提案を募集することが義務づけられるなど、今回の法改正によって個人情報の利用が大幅に自由化されるが、その一方で、そうした活動に対する監視機能の強化は明らかに不十分だ。  今回、軒並み規制緩和が謳われる中、監視強化や歯止め策としては「個人情報保護委員会の機能強化」 くらいしか見当たらない。個人情報保護委員会は内閣総理大臣の所轄に属する行政委員会で、8人の有識者からなるが、「指導」「勧告」などはできるが「命令」や「立ち入り検査」などの強い権限は有さない。今回の法改正ではこの個人情報保護委員会の機能強化が謳われているが、その具体的な中身はまだ何も決まっていない。少なくとも現在の委員会の体制のままで、今回大幅に自由化された個人情報の利活用を監視することは難しいと言わざるをえない。  自治体の個人情報保護審査会の委員などを務め個人情報保護法制に詳しいNPO法人情報公開クリアリングハウスの三木由希子理事長は、個人情報は本来は収集の目的を明確化した上で、本人の承諾を得て収集されるべきものであり、その経済的な利用はあくまで副次的なものに過ぎない。今回、経済的なメリットや利便性を理由に本人同意を不要にしたり、これまで禁止されてきたセンシティブ情報の収集を可能にするなどの改正が行われたことは本末転倒の謗りを免れないと、これを厳しく批判する。  今回の可決したデジタル改革法は2年以内に施行されることになっている。法案は可決はしたが、まだ再考の余地はある。今週は三木氏と、先日成立したデジタル改革法の中身を確認した上で、その問題点を検証し、日本がどのようなデジタル社会を指向しているのかを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 今週の論点 ・すべてが個人情報収集の規制緩和につながる法改正 ・三木氏が指摘する、デジタル改革関連法案の問題点の数々 ・EUのGDPRとの大きな落差 ・日本の個人情報保護制度は、なぜアメリカよりひどくなったのか +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ ■すべてが個人情報収集の規制緩和につながる法改正 神保: 今回はデジタル法についてきちんと議論したいと思います。 宮台: コロナ対策がうまくいかない理由について、日本のeガバメント、デジタル化が進んでいないせいだ、という話がまことしやかに語られています。だから、このタイミングでデジタル改革関連法が出てくるのは理解できないわけではない。十分な審議時間が取れない準非常事態でもあるので、通したい勢力にとってはとても都合がいいと思います。

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