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第132号(2021年6月7日) 北極は燃えているか(多分燃えていないという話)

小泉悠と読む軍事大国ロシアの世界戦略
存在感を増す「軍事大国ロシア」を軍事アナリスト小泉悠とともに読み解くメールマガジンをお届けします。 【目次】 ●インサイト 北極で「覇権争いが過熱」? ●今週のニュース ロシアの武器輸出、無人兵器、北極 ●NEW CLIPS 北極の核実験場を公開 ●NEW BOOKS 北極における中露関係 ●編集後記 いよいよ30代最後の1年となりました =============================================== 【インサイト】北極で「覇権争いが過熱」? ●注目を集めたAC閣僚会合  5月20日、アイスランドの首都レイキャビクで北極評議会(AC)の閣僚級会合が閉幕しました。AC閣僚級会合は2年に1回開催され、これを経て議長国が交代することになっているため、ひとつの節目といえる機会。  ちなみにACの正式加盟国は米国、ロシア、カナダ、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン8カ国ですから、議長国が一巡りするには16年掛かることになります。  ただ、今年のACはいつになく日本や世界のメディアから注目が集まった、という印象があります。私のところにも随分と取材やメディア出演の依頼があり、おやおや日本てこんなに北極に関心があったのだなと驚かされました。  その理由は様々でしょうが、第一に挙げられるのは米国での政権交代がしょう。前回の2019年閣僚会議では、トランプ政権が温暖化対策に抵抗したため共同声明が発出できなかったりしたのに対し、バイデン政権がどう出てくるかに注目が集まったということです。 (結果的には持続的な開発などを盛り込んだ「レイキャビク宣言」と「AC戦略計画」が策定された。<https://arctic-council.org/en/news/arctic-council-foreign-ministers-sign-the-reykjavik-declaration-adopt-councils-first-strategic-plan/>)  第二に、ラヴロフ外相が「ACでも安全保障問題を協議すべき」と言い出したことが指摘できます。本来、ACは北極での環境問題や持続可能な開発などを協議する場として1996年に設置されたものであり、安全保障絡みの話はしないということになっていました。しかし、ロシアは「北極の沿岸国6カ国のうち、ロシア以外はみんなNATO加盟国ではないか」として、北極における被包囲意識を度々強調しています。  しかも、米露首脳会談を6月に控える中で、今回のAC閣僚会合では議長国がアイスランドからロシアへと移っています。このタイミングでロシアがこういうことを言い出したということは、北極安全保障にもいろいろ動きがあるんじゃないのか、という観測が盛り上がるのは自然でしょう。  ちなみにAC閣僚会合前に外国記者団に北極のフランツ・ヨーゼフ島にある基地をロシア軍が公開したことは本メルマガ第130号(https://note.com/cccp1917/n/n1e0a54df4f69)で紹介したとおりです。  これに加えて、もしかすると3月に起きたスエズ運河での事故が第三の要因として働いたのかもしれません。スエズ運河が目詰まりを起こしたことで、世界の大動脈が特定のチョークポイントで扼されているという事実に注目が集まり、代替ルートして北極海航路に期待する論調はたしかに存在しました。

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  • ロシアは今、世界情勢の中で台風の目になりつつあります。 ウクライナやシリアへの軍事介入、米国大統領選への干渉、英国での化学兵器攻撃など、ロシアのことをニュースで目にしない日はないと言ってもよくなりました。 そのロシアが何を考えているのか、世界をどうしようとしているのかについて、軍事と安全保障を切り口に考えていくメルマガです。 読者からの質問コーナーに加えて毎週のロシア軍事情勢ニュースも配信します。
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