メルマガ読むならアプリが便利
アプリで開く

【Vol.381】冷泉彰彦のプリンストン通信

冷泉彰彦のプリンストン通信
「新型コロナワクチンの職域接種、3つの問題」  新型コロナワクチンの接種については、とにかくワクチンは確保できたの で、どんどん打つ、そのためには可能なグループ、可能な場所からどんどん 接種を実施してゆく、という方針については、一定程度は理解できます。少 なくとも、全国一斉という杓子定規よりは「まし」だからです。  そんなわけで、ここへきて急浮上しているのが職域接種ですが、これは筋 が悪いと思います。今回は3点、問題点を指摘したいと思います。  1点目は、徹底的に差別的だということです。中小企業は単位が小さすぎ るので、グループ化を進めて実施するにしても、時間がかかりそうなので事 実上大企業優先というのが、まず差別的です。  更に対象範囲としては、加藤勝信官房長官は「企業での接種で従業員の家 族を対象とすることは十分あり得る」と明言した一方で、「非正規で働く人 やアルバイトを接種対象とするかどうかはそれぞれの主体で判断してもらい たい」と露骨な差別を行なっています。  大蔵官僚だった加藤氏らしい、露骨な発想です。露骨というのは意識とし て差別的というのではなく、制度に即しているからです。正社員の家族は、 通常の場合、その企業の健康保険など社会保険の「被扶養者」としてメンバ ーシップ内という扱いを受けます。ですから、その人たちのために、コスト をかけるのは「福利厚生費」として無税になるのです。  ですが、バイトや派遣というのは、そのメンバーシップ制度の「外側」に なります。こうした人々に対する社員食堂の扱いなどで、差別はいけないと いう声に応えて、厚労省は「差別するな」的な通達を出していますが、旧大 蔵省的な発想からは、「外部の人に対する福利厚生は接待費であり税金をか ける」という思想があります。  仮に、今回の職域接種について、非正規を対象とするかある企業が迷った とします。そこで、ワクチンは無償であっても、場所を提供したり、直接間 接にコストをかけるのは事実なので、どうしたらいいか、税理士に相談する とします。  そうすると、社会保険労務士などを兼ねていて、労政に詳しい税理士であ れば、「今の風潮からすれば、非正規を差別してはダメですよ」という正し いアドバイスをしてくれるでしょう。ですが保守的な税理士で、税金のこと しか知らない人に当たると、「外部の人間への福利厚生はダメ」の一点張り になると思います。つまり、交際費なのに福利厚生で落とそうとして国税に 指摘されたら、スキャンダルだという発想法です。  そんなことは加藤氏は分かっているはずですが、そこで「非正規のコスト も福利厚生で」などと指示すると、財務省がヘソを曲げてはいけないので、 企業に判断を投げるというあたりは、完全に大蔵官僚的であり、正に加藤氏 的なノリということになります。ヒドい話です。差別的ということもありま すが、少なくともクラスター発生を防ぐ意味での感染対策にもなっていない わけです。  2点目は、この非正規の扱いもそうですが、実際に多くの人と対面で仕事 をしなくてはならない「エッセンシャルワーカー」が優先されていないとい う問題があります。  まず非正規の人は、どうして多くの場合にテレワークを認めていないのか というと、その多くが対人の対面業務だということがあり、また、「職場に 通勤して時間拘束を受ける不自由」を受け入れないと企業が金を払わないと いう非人間的な制度に縛られているからです。  その制度を批判すると長くなるので、今回は止めますが、とにかく非正規 の人が対人業務になるというのは宿命的なものがあるわけです。加えて、外 食、宿泊、運輸、教育などのエッセンシャルワーカーの人々も、どう考えて も優先されるべきです。それが、結果的に大企業の正社員優先ということに なるのは全くおかしいと思います。  3点目は、これで大企業の事務仕事を、テレワーク化することで生産性を 高めるという業務改革が中途でウヤムヤになるという懸念です。(以下略)

この続きを見るには

この記事は約 NaN 分で読めます( NaN 文字 / 画像 NaN 枚)
これはバックナンバーです
  • シェアする
まぐまぐリーダーアプリ ダウンロードはこちら
  • 冷泉彰彦のプリンストン通信
  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
  • 880円 / 月(税込)
  • 毎月 第1火曜日・第2火曜日・第3火曜日・第4火曜日