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【Vol.382】冷泉彰彦のプリンストン通信

冷泉彰彦のプリンストン通信
「納得できないバイトテロ問題」  カレーの全国チェーン店で、厨房のアルバイトが「不潔な悪ふざけ」を撮 影した動画が拡散してしまい、チェーンの本部が謝罪に追い込まれました。 どうにもやり切れないニュースですが、毎度のことながら、同時にどこかス ッキリしないものも感じます。  1つ目は、どうして「そこまで気にするのか」という問題です。まずこう した行動は悪質なモノであっても、イタズラであり、実際に不衛生な食品が 消費者に渡るような行為ではないわけです。にもかかわらず、大きく報道さ れ、また報道されることでブランドイメージが、そこまで損なわれるという が、100%理解できません。  勿論、そうした動画を見ただけで不快感を感じて、そのブランドへの購買 意欲が減退する、そのぐらい過敏であることが衛生概念の証明だということ は言えます。その衛生概念の徹底ということが、今回の新型コロナにおける 「欧米と比べて人口比で感染も死亡も20分の1」という結果になっている ということも言えます。  ですが、悪いことをしたのは、特定の店の特定の人間が特定の機会に行っ たのであって、悪質であってもイタズラであって実害はない、ということを 分かっていていて(安全だが)も、何も感じずにそのブランドを利用するこ とはできない(安心ではない)という点ではマイナスイメージが歴然とある、 という傾向が強い社会というのは、本当に万人が幸福な社会なのか、そもそ も社会として問題や危機に強い社会なのか、ということは考えた方が良いよ うに思います。  アカンことは確かなのですが、そこまで大きく反応すべきことなのかとい うことです。  2番目は、拡散した人間の存在です。この種の事件が起きるたびに、制限 された仲間内だけの公開であるのに何故という「犯人」の声が出てきます。 つまり、シャレでやって、秘密にしておいて、それで済ますという前提での イタズラにも関わらず、ネットの空間に流出してしまったわけです。  その場合には、拡散した人間がいると考えるしかありません。犯人の仲間 内で、誰かがオープンなエリアに拡散したのです。一旦拡散してしまえば、 ネットでは無制限にコピーされて加速度的に拡散するわけですが、そのキッ カケを作ったのは、犯人だけでなく流出させた人間です。こちらへの批判や 告訴といったことがあっても良いのではないかと思います。  3番目は、被害者であるはずの会社がどうして謝罪するのか、という問題 です。消費者の「安心」を損ねたのだから、とにかく平謝りに謝っておくし かないというのは、分かりますが、例えばの話、会社が被害者でないという のは、バイトは仲間(内輪)だという感覚があるという理解もできます。  つまり商人として「手前どもの落ち度」なのだから、ひたすら謝るという わけです。ですが、4番目として、ここが一番不自然なのですが、企業とし て、「自分たちの仲間、内側の人間の不始末」だとしているにしては、個々 のバイトというのは、実は「本部の直雇」ではなく、本部が業務提携してい る「フランチャイジーという零細企業」の「最低賃金に近いバイト」という 位置付けであるわけです。  本部として「手前どもの落ち度」を一緒に謝ってくれるぐらいなら、ちゃ んと「手前ども」の仲間として認識して、もう少し処遇をちゃんとすること はできないものかと思います。  そもそも賃料、光熱費、人件費込みでカレー514円(税込)というのは、 物凄い無理があるわけです。勿論、現在のこのマーケットでは、514円と いうのは結構な高価格戦略であり、牛丼並が350円などといった価格と比 べれば、強気だという解説もあるわけですが、514円とか350円という 価格が成立する、しかも一等地に出店して、標準仕様の高額なマシンが入り、 立派な本部事務部門のコストを吸い上げられてという構造にはやはり無理が あります。  人手不足の中で、結果的にカネを出さないとなると、バイトテロ予備軍の ような人間も採用せざるを得ない、けれども万が一事件を起こされるとダメ ージが大変なので、性悪説で締め付ける、そうなると印象が悪いので余計に 人が集まらないという悪循環も想定されます。  いずれにしても、食べ物としては非常に直接原価の安いものを、薄く広く ブランド料として本部が利益を集め、また薄利多売で何とか賃料や什器や光 熱費を捻り出し、残った粗利の中からカスカスの人件費を払うというビジネ スモデルの苦しさ、これがやはり今回の問題の背景にあるのではないかと思 います。勿論、コロナ禍の問題もありますが、それ以上にとにかく外食のデ フレという問題は、コロナ後を見据えながら考えていかないとダメだと思い ます。

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  • 冷泉彰彦のプリンストン通信
  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
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