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【Vol.383】冷泉彰彦のプリンストン通信

冷泉彰彦のプリンストン通信
「上原浩治氏、阪神ファンに嫌われるのは勲章では?」  野球解説者というよりも、元巨人の大エースで、BOSの伝説のクローザ ーであった上原浩治氏に対して、かなり失礼なコメントがあったのは事実の ようです。  内容として報じられているのは、上原氏の野球解説を「面白い」と評価し た文脈ではあります。その上で、上原氏の外見に対し「現役の時、筆者は彼 の顔が苦手で、余り好意をもっていなかった。引退後の上原は美醜に関係が なくなり、発言もしっかりしてきた」と、現役時代のプレーや野球解説に全 く関係のない“容姿”に言及したことが問題視されています。  問題視したのは、上原氏ご本人で、 「これは、産んでくれた親に失礼だと思います」 「自分は何とか大丈夫ですが…それでも少し凹んでます」 「ブサイクでも野球頑張りました」 「あなたに何か迷惑かけましたか??」  とかなりキッパリとクレームを宣言しています。これを受けて、ネット記 事をアップしていたメディアは企業としての謝罪に追い込まれましたし、エ ピソードとしては炎上ということになりました。  この問題ですが、ストーリーとしては、やや不完全なように思います。私 の知る限りでは、このコメントを書いたのは、それなりに著名な評論家で、 但し世代的には現在は80代の女性のようです。  これに加えて大事なのは、この評論家が相当熱心な阪神タイガースのファ ンだということです。  野球というのは、サッカーとはまた別に意味で、非常にバカバカしいファ ン心理を抱えたスポーツでして、特に、読売ジャアンツと阪神タイガース、 アメリカの場合ですと、ヤンキースとレッドソックス、あるいはドジャース とジャイアンツなどは、お互いに「相容れない」というぐらいの、激しいラ イバル意識を燃やしますし、ファンもそうしたライバル意識を込めて熱狂し ます。  これは、その過剰な熱狂そのものがエンタメという、全く正しくもなけれ ば、格好良くもない話ですが、少なくとも、そうしたライバル球団のファン 同士の真理としては、そのぐらいケンカ腰になるのが一生の楽しみというこ とになるのは、まあ事実としてあるわけです。  ということは、現在80代の女性が、例えばですが22年前の1999年 のシーズンの時点で熱狂的な阪神ファンであったならば、上原氏の顔も見た くないというのは、極めて当たり前の心理だと考えられます。勿論、まった くお行儀の良い話ではありませんが、特に女性の場合は数%の冗談を込めて 「容姿が苦手」的なことを言うことはありそうな訳です。  この1999年は上原氏デビューの年です。「サンデー上原」として15 連勝しており、シーズン全体としては20勝4敗でその中には阪神戦もあっ たわけですから、阪神ファンとしては、大変な実害だったわけです。  上原氏は「あなたには迷惑をかけましたか?」と問いかけていますが、当 時の阪神ファンとしては、ものすごい「実害」だったはずです。そして、そ のことは上原氏としては「勲章」であり、その「顔も見たくない」と言うぐ らいに憎まれていたということは、一流の証明であり、またアスリートとし ての輝きに他ならないのです。  というわけで、この問題ですが、「ああ、あの女性、かなり熱狂的な阪神 ファンだったようですよ」「なあんだ、そうなんだ」という一言で済む話で はないかと思うのですが、どうでしょうか?  この件に関連して、マラソンの高橋尚子さんも同様に「容姿」に言及した ネガティブコメントに悩まされたと述べています。高橋さんの場合は、敵味 方のゲームではないし、アンチにしても、例えば野口みずき選手のファンが、 ライバル意識にかられて高橋さんを憎むという構図が「社会的に認められて いる」わけではありません。ですから、ジャンジャン怒って良いと思います。  ですが、上原氏の場合は、阪神ファンからの過去の恨み節などは、勲章と いうことではダメなのでしょうか? 勿論、良いことではないし、ご本人が 不快に思われたのなら、それは抗議する権利はあるし、抗議する権利は拡大 して良いと思います。ですが、発行会社が謝ってしまい、同様の話は今後は 絶対的なタブーになっていくという流れについては、少々過剰ではないかと 思う次第です。

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  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
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