■消費者の問い
新型コロナウイルス感染の拡大で握手とハグが当たり前だった日々
は終わった。ワクチンが行き渡っても以前の世界に戻ることはあり
えない。こんな時代にリーダーたちは難しい舵取りを迫られている。
小売業界でも、経営幹部やマーケティング担当者にとってポストコ
ロナの世界で事業をどう再構築するかが大きな課題だ。ここでは、
これからの時代に生き残れる小売の型を提示したい。
アフターコロナ時代に向けて、リーダーが陥りやすい落とし穴があ
る。たとえば、重要な問題に注力しているつもりで、長期的には些
末なものや経営へのインパクトに欠けるものに取り組むことが多い。
消費者のウイルスや細菌に対する敏感な姿勢は、流行収束後も変わ
らない。また、消費者は景気の低迷と失業に直面するはずだ。これ
に合わせて自社の強みに調整が必要になることもあるはずだ。
また、消費者は店舗に足を運ぶ回数を減らし、オンライン購入を増
やしている。この動きは世界の動向だ。感染拡大収束後もオンライ
ンショッピングの支出は増加する見通しだ。
★
これらの動向は、いずれも予見しやすい。ほとんどの企業にとって
想定内のはずだ。むしろ、これらに目を奪われている背後で進む変
化のほうにこそ、企業や業界さえ吹き飛ばしてしまうものが潜む。
だから、リーダーはもっと先に視線を向けるべきだ。そして、小売
の世界や消費者の行動の深層で進む特徴的な変化を見極めてようと
するべきだ。
その時、リスクになるのが視野の狭さだ。新たな消費者行動の変化
に対する答えをすべて自分の業界や分野の狭い範囲で探そうとする
発想はだめだ。針穴から世界を見ていると重要な変化を見落とす。
今回の危機では、時間が加速しただけでなく、時空の歪みも発生し
た。企業は、まるで違う時代にワープするのだ。その先にあるのは
新しい社会、消費行動、競争なのだ。
将来、今を振り返った時、このパンデミックは進化のターニングポ
イントだったということになるはずだ。不相応に規模を拡大させる
企業もあれば、適者生存の波に飲まれ消える企業も出てくるはずだ。
大事なことは、消費者に訴求する価値やビジネスの目的、存在意義
などを刷新する気概だ。新型コロナウイルスを天変地異ではなく、
いい変化を生む起爆剤と捉える勇気が必要なのだ。
★
一部の巨大企業を除いて、大半の小売業者が生き残る道は、独自路
線を歩むことだ。顧客から「理屈」でなく「感性」で選ばれる定番
になることだ。「サイエンス」でなく「アート」を極めるのだ。
残念ながら市場の中心部は巨大企業に奪われた。あらゆるブランド
は市場のポジショニングを再考し、立て直す必要がある。魅力ある
価値を顧客訴求できない企業は退場するのみだ。
大事なことは「なぜ、自社が必要とされるのか」を徹底的に考える
ことだ。会社の目的だ。経営理念とか、ビジョンとか、価値観など
ではない。そもそも自社の存在理由のことだ。
ブランドとは、顧客が何かを手っ取り早く表現する手段のことだ。
膨大な数の選択肢の中で迷わないように誘導する手段だ。顧客が選
択肢を絞り込めるように支援するのだ。
顧客から頻繁に寄せられる問いには、スパッと答えられるようにな
らねばならない。顧客が「それならあの店だよ」と自社の名前を挙
げてくれるような店になるべきだ。
そのためには、そもそも自社がどんな問いの答えになりたいのかを
知るべきだ。「何を問えば顧客が自社の名前を答えてくれるか」が
見えていないうちは、自社のブランドは存在しないのと同じだ。
消費者が抱く問いは、少なくとも10種類はある。消費者は、この問
い対する答えを求めている。中には、巨大企業やミニマーケットプ
レイスでは答えられない問いもある。
自社が、これらの問いの明確な答えになることができれば、その分
野で差別化できる。さらに、抜け目のなさもあれば、規模に似つか
わしくないほど、大きな売り上げと利益を確保できるはずだ。
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