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「ダニエル・ゼンネルトとキミア、そして神学論争」最終版

BHのココロ
  • 2021/07/02
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2019年11月にドイツのヴォルフェンビュッテルで開催された錬金術と大学をテーマにした国際会議で招待発表した新作論文が、出版されたばかりの Ambix 誌の特集号「錬金術と初期近代の大学」(Ambix 68 (2021), 198-213)に収録されました(https://bit.ly/3cUpDhR)。今回はその邦訳版です。すでに発表原稿の邦訳版を2020年2月号として配信しており、発表原稿と重なる部分も多いのですが、どのくらい加筆による変化があるのか、最終的な論文と比較できるでしょう。 「ダニエル・ゼンネルトとキミア、そして神学論争」 1. はじめに  その著作と教育をとおして、ヴィッテンベルク大学の医学教授ダニエル・ゼンネルト(Daniel Sennert, 1572-1637)は、初期近代ヨーロッパの同時代人たちや、それにつづく世代に大きな影響をあたえた。彼の仕事は、物質論と生命の科学の交錯する17世紀初頭の領域で提起された諸問題を凝縮している。そこでは生命の起源がもっとも重要でしばしば議論される主題だった。 ゼンネルトは、近年さまざまな分野で歴史家たちの関心を集めている。英国の化学者ロバート・ボイル(Robert Boyle, 1627-1691)にとって、ゼンネルトが粒子論的かつキミア的な議論の主源泉としての役割をはたしたことに新たな光が当てられた。アリストテレス流の質料形相論とデモクリトス流の原子論が交錯する彼の霊魂論は、最近の幾つかの研究の対象となった。 さらに前成説的な発生論とモナド論のつながりは、哲学史の文脈ではほとんど扱われてこなかったゼンネルトがカギをにぎる人物としてライプニッツ(Leibniz, 1646-1716)の専門家たちに再考をせまっている。私自身の研究では、下位の諸生物の自然発生についての彼の議論とともに、動植物や人間の通常発生についての彼の考察に焦点をあわせた。  もちろんゼンネルトは、錬金術と化学を恣意的に分離しない知の伝統である「キミア」chymia の擁護のために博識で影響力ある著作を出版した最初期の医学教授であり、新教派のヴィッテンブルク大学でキミアの研究と実践を推奨したことでも知られている。キミア史全体およびゼンネルトの原泉についての研究は近年大きな進歩をとげており、バランスのとれた詳細で歴史的・知的な背景のもとに彼のキミア観を再考するに十分な資源を現在の我々はもっている。 本稿では、この方向に小さな歩を進めることに満足しつつ、キミアについての主著の結果として彼が不本意にも巻きこまれた論争の神学的な次元についての短い分析をそえることにしよう。この事例研究は、初期近代の諸大学におけるキミアの地位がしばしば不安定であり、伝統的な自然哲学や医学の支持者たちの攻撃にさらされ易かったことを示すだろう。また聖書的な天地創造や人間霊魂の起源と本性といった宗教的あるいは神学的な主題が、こうした攻撃においてどのように動員されたのかを示すだろう。

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