存在感を増す「軍事大国ロシア」を軍事アナリスト小泉悠とともに読み解くメールマガジンをお届けします。
【目次】
●インサイト 謎に包まれた「海洋多用途システム」ポセイドン 原子力魚雷か、深海工作艇か?
●NEW BOOKS ロシア西部における軍事態勢 ほか
●編集後記】夏休みをたのしみに
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【インサイト】謎に包まれた「海洋多用途システム」ポセイドン:原子力魚雷か、水中工作艇か?
●姿を現した新型原潜ベルゴロド
近々、ロシア海軍に新たな原子力潜水艦が就役することになりそうです。
09852型原子力潜水艦ベルゴロドがそれで、最近、洋上公試へ向かう姿が撮影されてロシア軍ウォッチャーの間で話題になりました(
https://twitter.com/PoAlexey/status/1410574732907401216?s=20)
ベルゴロドは魚雷や巡航ミサイルを主武装とする多用途原潜(西側でいう攻撃型原潜=SSNまたは巡航ミサイル原潜=SSGN)ではなく、弾道ミサイル原潜(SSBN)でもありません。
もともとは949A型SSGNとして1992年に起工されたのですが、予算不足で建造が止まってしまい、2012年に特殊任務原潜に改装することが決定されました。
特殊任務原潜とは何なのかについて、ロシア国防省ははっきりした定義をしているわけではないのですが、世の中では原子力魚雷ポセイドンの母艦ではないかという観測が有力なようです。
ポセイドンは2018年3月1日にプーチン大統領が行った教書演説(
https://www.youtube.com/watch?v=if4uUePcJ0A)で初めて存在が公にされたものであり、原子力によって大陸間を高速で移動することができ、核弾頭または通常弾頭を搭載して、敵国の沿岸施設や艦隊を攻撃することができるとされています。
また、ポセイドンは静粛性が極めて高く、非常に深く潜れるため、現時点ではこの兵器に対抗できる手段はどの国にも存在しない---プーチン大統領はこう述べた上で、「まったくSFみたいでしょう」と胸を張りました。
(プーチン大統領は、ポセイドンの心臓部となる原子炉は2017年に試験が完了したばかりの最新技術であり、消費エネルギーは原子力潜水艦の100分の1でありながら、戦闘時の緊急出力に移行するまでの時間は200分の1に過ぎないといった細かい技術的特徴にも触れている)
●「うっかり」映り込んだ海洋多用途システム
ただ、ポセイドンの存在自体は、各国の軍事専門家にとっては全く寝耳に水というわけではありませんでした。2015年11月に開催されたプーチン大統領と軍・軍需産業関係者との会合の際、これとよく似た兵器について記載された会議資料をテレビカメラが「うっかり」捉えていたからです。
問題の資料が「多用途海洋システム「スタトゥス-6」」と題されていたのに対し、プーチン大統領の演説で公開された動画が最後は「原子力エネルギー装置搭載型水中無人艇を装備する多用途海洋システム」という字幕で締め括られていたことからしても、おそらく両者は同一のものであろうと考えられています。
ちなみに、以上で「うっかり」とカッコを付けたのは、それが実は意図的なものではないかという疑いが強いためです。かつてウクライナ大使も務めたロシア通の軍備管理専門家スティーブン・パイファーが述べるように、ロシア大統領が出席する会議をカメラに収める場合には大統領府が厳しくコントロールするのが普通であって、こうした機密資料が電波に乗って流れるのはクレムリンがそう望んだから、と考えるべきでしょう。
(Steven Pifer, “Russia’s perhaps-not-real super torpedo,” Order from Chaos, 2015.11.18. <
https://www.brookings.edu/blog/order-from-chaos/2015/11/18/russias-perhaps-not-real-super-torpedo/>)
いずれにしても、ポセイドンとスタトゥス-6はどちらも原子力を動力とする無人システムであり、母艦となる原子力潜水艦から海中で発進するとされています。その母艦第一号と見られているのがベルゴロドであり、実際、今回ネット上で拡散されている動画では艦首部分に通常の魚雷発射管とは桁外れに大きなハッチが二つ設けられているのがうっすらと見て取れます。
以前は艦体の側面から斜め前方に向けて発進するという推測もあったのですが、どうやら実際には普通の魚雷のように発進する方式が採用されたようです。
●原子力魚雷説の真偽
さて、それではスタトゥス-6改めポセイドンはプーチン大統領が述べるとおり、敵国沿岸で核爆発を起こすための「原子力魚雷」なのでしょうか。
こうした構想がソ連時代に存在したことは事実です。
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