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第138号(2021年7月19日) ロシアの新国家安全保障戦略、中央アジアへの米軍展開問題 ほか

小泉悠と読む軍事大国ロシアの世界戦略
存在感を増す「軍事大国ロシア」を軍事アナリスト小泉悠とともに読み解くメールマガジンをお届けします。 【目次】 ●レビュー ロシアの新国家安全保障戦略を読む-1 ●今週のニュース 中央アジアにおける米軍事プレゼンスを巡る米露の駆け引き ●NEW BOOKS 対潜作戦の最新事情と監視社会 ●NEW CLIPS ロシアの新型戦闘機 ●編集後記 忙しい時に限って =============================================== 【レビュー】ロシアの新国家安全保障戦略を読む-1  7月2日、プーチン大統領は新しい「ロシア連邦国家安全保障戦略」を承認する大統領令に署名しました。  同文書の前バージョンは2015年に策定されており、今回の改定は6年ぶりということになります。ちなみにロシア政府がこの種の総合安全保障政策文書を策定したのは、1997年の「ロシア連邦国家安全保障概念」が初であり、以降、2000年版、2009年版(ここから「国家安全保障戦略」と改名)、2015年版を経て今回の2021年版へと繋がっています。 (なお、2015年版はnoteの方に全訳(https://note.com/cccp1917/n/nc5fba90e485c?magazine_key=m6e2f7e7c705f)を掲載してあります)  というわけで本メルマガでは今後数回に分けて、この新しい政策文書中身を紹介していきたいと思います。長いので本当はDeepLを使いたいところですが(最近有料会員になったことでもあるので)、こういうのは細かいワーディングも重要なので昔ながらの手動翻訳でやっていきましょう。  今回はまず第1章「総則」と、国際情勢認識を示した第2章「現代の世界におけるロシア」を訳出してみました。 ------------------------------------------------------------------------------------------------------ 第1章 総則 1. 国防力の強化、国内の一体性、政治的安定性、経済の近代化、産業ポテンシャルの発展に向けたロシア連邦の間断ない歩みは、独自の対外・体内政策を遂行し、外国からの圧迫の試みに効果的に対処する能力を持った主権国家としての地位を保障するものである。  ロシア社会、国家の安全保障、法的・社会的な国家としてのロシアの更なる発展のための基礎となる根本的な価値と原則は、ロシア連邦憲法によって揺るぎないものとされている。そこで最も重要な意義を持つのは、人及び国民の権利と自由を遵守・保護し、人々の福祉を向上させ、ロシア連邦国民(以下、国民という)の尊厳を守ることである。  公正な社会の形成とロシアの繁栄は、力強い大国であることと、人々が平穏であることが、調和のうちに結合して初めて可能となる。そのためには、外部及び内部の脅威を中立化し、国家的な発展目的を達成できる条件を形成するための、ロシア連邦の戦略的国家優先目標を協力して実現させなければならない。 2. 本戦略は、ロシア連邦の国益及び戦略的国家優先目標、国家安全保障と長期的な将来に及ぶロシア連邦の安定的な発展の分野に関する国家政策の目標と課題を規定する戦略的計画策定の基礎となる文書である。 3. 本戦略は、ロシア連邦の国家安全保障と国家の社会・経済的発展との不可分の相互関係及び相互依存性を基礎とする。 4. 本戦略の法的基礎は、ロシア連邦憲法、2010年12月28日付ロシア連邦法第390号『安全保障について』、2014年6月28日付ロシア連邦法第172号『ロシア連邦における戦略的計画策定について』、その他の連邦法、ロシア連邦大統領の発出する法令である。 5. 本戦略で用いる基礎的な用語は以下のとおりである。 1) ロシア連邦の国家安全保障(以下「国家安全保障」という)とは、ロシア連邦の国益が外部及び内部の脅威から保護され、これによってロシア連邦憲法の規定する国民の権利及び自由、その十分な生活の質及び水準、国民の安寧と国内の調和、ロシア連邦の主権の保護、その独立と国家の一体性、国家の社会・経済的発展の実現が保障されている状態をいう。 2) ロシア連邦の国益とは、人、社会及び国家が保護され、安定的に発展するために、客観的な必要性が極めて高いものをいう。 3) ロシア連邦の戦略上の国家的優先課題(以下、「戦略上の国家的優先課題」という) とは、国家安全保障の確保と安定的な発展に関する最重要の分野をいう。 4) 国家安全保障とは、公権力機関が市民社会の組織と連携し、政治・法・軍事・社会経済・情報の分野で組織的その他の措置を組織して国家安全保障上の脅威への対抗措置を実現することをいう。 5) 国家安全保障上の脅威とは、ロシア連邦の国益に損害をもたらす直接的又は間接的な可能性を形成する条件及び要因の総体をいう。 6) 国家安全保障の確保のためのシステムとは、国家安全保障の確保に関する分野における国家政策の実現に携わる公権力機関とその付属機関の総体をいう。 第2章 現代の世界におけるロシア:傾向と可能性 6. 現代の世界は変容の只中にある。世界の経済的・政治発展の中心はその数が増加していること、新たなグローバル・地域的リーダー国がその立場を強化していることは、世界秩序の構造変容と、世界のありように関する新たなアーキテクチャー、ルール、原則に繋がっている。 7. 自らの覇権を維持しようとする西側諸国の意図、経済成長の現代的なモデルと手段の危機、諸国家の発展の不均衡の強まり、社会的不均衡の増大、国家の役割を制限しようとする多国籍企業の意図は、内政問題の先鋭化、国家間対立の強まり、国際機関の影響力低下、グローバル安全保障システムの有効性の低下を伴っている。 8. 強まる世界の不安定性と過激主義的・急進的気分の高まりは、国内及び国外の敵を探して国家間対立の強まりを解決しようとする試みと、経済と伝統的価値観を破壊し、基本的人権と人間の自由を無視しようとする試みをもたらしている。 9. 地政学的な緊張が高まる中にあって、ロシア連邦は、国際法に支えられた国際関係のシステムの安定性増大、社会全体に渡る公正で総合的な安全保障、差別的な処遇やブロック的アプローチによらない多国間相互協力の深化を実現し、国連及び国連安全保障理事会中心の調整によってグローバル・地域的問題を協力して解決しなければならない。 10. 国家安全保障の確保に関する分野におけるロシア連邦の国家政策の実現は、国内の安定性を増大させ、現代の世界における影響力の中心の一つとしてのロシアの役割を強化するために必要な経済的・政治的・軍事的・精神的ポテンシャルを強化することを可能とする。 11. 現代においては、ロシア社会の団結が強化され、国民の自覚が強まり、伝統的な精神的・道徳的価値観を保護する必要性についての使命感が高まり、国民の社会的活動が増加し、地域的・国家的重要性を持つ喫緊の課題解決に国民が参画するようになっている。 12. 国家的・社会的安全保障、領土的一体性及び主権は十分な水準で確保されており、テロ活動の水準は実質的に低下している。軍事政策の間断ない実現により、軍事的危険性及び軍事的脅威からロシア連邦は保護されている。ロシア連邦の内政に対する外部の干渉は効果的に退けられている。 13. ロシア連邦は自らの経済的安定性を全世界に示し、制裁による外敵圧力の対抗する能力を証明してみせた。経済の重要分野において輸入への依存を低下させるための作業が続いている。食料・エネルギー安全保障の水準が高まった。 14. ロシア連邦が経済発展の新たな段階へと移行し、国民の生活の質を高めるために、人口動態のネガティブな傾向を克服し、保健分野における構造的な問題を解決し、貧困率と社会の収入格差を解決し、環境を改善するための複合的な措置がとられている。科学的ポテンシャルの発展と、教育の質とアクセスの改善は、ロシア経済の構造的な再編成を加速するものである。 15. 諸外国の非友好的な振る舞いに対するものを含めた外的・内的な脅威に対するロシア連邦の国益を確保・保護するために、世界の長期的な発展傾向を勘案して、ロシア連邦のこれまでの蓄積と競争力のある優位分野をより有効に活用できるようにする必要がある。

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  • 小泉悠と読む軍事大国ロシアの世界戦略
  • ロシアは今、世界情勢の中で台風の目になりつつあります。 ウクライナやシリアへの軍事介入、米国大統領選への干渉、英国での化学兵器攻撃など、ロシアのことをニュースで目にしない日はないと言ってもよくなりました。 そのロシアが何を考えているのか、世界をどうしようとしているのかについて、軍事と安全保障を切り口に考えていくメルマガです。 読者からの質問コーナーに加えて毎週のロシア軍事情勢ニュースも配信します。
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